半兵衛

殺人地帯U・S・Aの半兵衛のレビュー・感想・評価

殺人地帯U・S・A(1961年製作の映画)
4.5
どす黒いアメリカの闇社会に父の復讐のため立ち上がった男が切り込み内部を崩壊させていくというギャング・ノワール、冒頭の簡潔的に主人公の背景を描くスマートな演出と影を使った殺人シーンで引き込まれてそこから衝撃的なラストまで怒涛の勢いとスピードで運び込まれるフラー監督のキレキレな語り口が素晴らしくて一気に見てしまった。拳銃を使わず、あくまで知恵をメインにときには素手や手に持った武器で攻撃する荒々しさと狡猾さが入り交じった痛快さも最高。

父を殺した男たちを殺害せんとする男を演じるクリフ・ロバートソンの不敵な顔立ちががむしゃらに復讐へ突っ走るB級的な主人公のキャラクターにぴったり、顔についた傷跡も復讐の刻印のようでかっこいい。そしてヒロインの美人ではないけど意思の強さを感じる面構えもフラーらしい。

それほど大規模なシーンが無いのに最小限の人数とセットだけで大規模な闇社会を表現してしまうフラーのマジックが凄い、それに監督がジャーナリスト出身のためか闇社会の人間たちや警察の会話がリアルでドラマにリアリティと衝撃をもたらす。

主人公たちに協力する中年女性の家にある赤ちゃんの写真やグッズがどんな台詞よりも雄弁に彼女の内面をよく表現していた、そしてそれがある人物との出会いで悩む主人公のドラマ、子供を手にかけた男への報復へと繋がる流れも見事。

完璧な計画でターゲットを葬ってきた男が犯した最後に凡ミスしてしまうのが信じられないが、それだけ自分の生き方に悩んでいたということなのだろう。でもそれが故の悲惨な結末で終わらせるのではなく、彼の遺志を受け継ぐ人物が現れることを示唆する『黒い警察』や『L.A.コンフィデンシャル』のようなラストが熱い。最後に映る握られた拳が弱き者たちの連帯を証明する。

でも暴力やテクニックだけではない、愛や社会性も備えた作品を撮ってしまうサミュエル・フラーはこれからもずっと映画ファンを魅了し続けることだろう。
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