半兵衛

盗まれた欲情の半兵衛のレビュー・感想・評価

盗まれた欲情(1958年製作の映画)
3.7
大学出の尊大なインテリ演劇青年の新しい演劇への野望を、同じ大衆劇団に所属するその日その日を本能に赴くがままに生きる団員が軽快にぶち壊していく様はまさに痛快。それでいてそんな挫折した彼が馬鹿にしていた団員が演じる「鏡獅子」に芸の本質を見出だし立ち上がる姿を描くことでラストの後口を爽やかにする手腕はデビュー作とは思えないくらい巧妙で、後年の今村監督の活躍ぶりの予兆を感じさせる。

才気ぶっていて鼻持ちならないのに飄々としていてどこか憎めない長門裕之の快演もさることながら、多彩な団員をまとめ上げる大衆劇団の座長滝沢修の軽みの中に度量の広さを垣間見せる演技も見事。演劇界のベテラン滝沢修が後輩の演劇人である西村晃や子役上がりの長門を叱咤するという映画と現実の世界が地続きになっている設定もイイね。

この作品の翌年に、今村が反発していたという松竹の大先輩小津安二郎が同じ大衆演劇を題材にした『浮草』を手掛けるというのも皮肉。
半兵衛

半兵衛