TaroYamada

タクシードライバーのTaroYamadaのレビュー・感想・評価

タクシードライバー(1976年製作の映画)
5.0
真綿で首を締められる様なジワジワ来る衝撃、人の狂気を声高になる事無く淡々と描かれている

精神が狂っていく、それは誰しもが陥る可能性があり、何らかのスイッチによって変貌してしまう
トラヴィス(R.デ・ニーロ)の行動は劇中最初の頃から既におかしい、それは海兵隊のベトナム帰還兵だからなのか、元からなのかは分からない
ベッツィー(S.シェパード)をデートに誘い話している内容もどこか的を得ずにズレているし、映画を見ようとポルノに連れていくのも普通ではあり得ない
案の定、それを機に冷たくあしらわれる様になり、徐々に偏執狂の様になっていく

闇で拳銃を手に入れ、何度も何度も射撃のトレーニングをする姿、偶然雑貨屋で出くわした強盗に発砲、大統領選(予備選)候補者へのテロを企てるがシークレットサービスに阻まれる、最後は児童街娼をしているアイリス(J.フォスター)を助けようとする

トラヴィスが社会からの疎外感や絶望により、何物かが心の中で弾けてしまい狂っていく様を、美化する事も特別視する事も無く、淡々と描写する演出は非常に恐ろしくも素晴らしい
人間の心はまるで平均台を目隠しして歩いている様なもので、いつ誰が奈落の底に落ちてしまうとも限らない、それ位に危ういバランスの中で均衡を保っているのだと思う
それを可視化し、具体的に描写した本作はそれだけで価値あるものとなった

B.ハーマンの音楽も素晴らしい、最初は大仰でうるさいかな?と思いながら見ていたが、見ていく内にニューヨークのナイトシーンと非常に合う、トラヴィスがタクシー以外には逃げ場が無い様な感覚、孤独感により拍車が掛かる効果が有る様に思えてきた
後年のスコセッシ作品とは音楽の使い方はかなり違うが、これはこれで素晴らしいと思う、勿論、音楽自体はこれぞ王道と言える映画音楽だった

監督本人のカメオ出演、もう少し声が高い印象が有ったから、一瞬見違えたがあの喋り方は確かに本人だ
タクシーに潜み、夫人の不貞行為(相手は黒人)を見張る男を演じる、その台詞には狂気じみた言葉が見え隠れし、もし自分がタクシー運転手であんな客を乗せていたら、自分が殺されるんじゃないか?と不安になってしまいそうな恐ろしさ
あのシーンからスコセッシの役柄の狂気がトラヴィス≒デ・ニーロに憑依していった様に進んで行くから、話のトリガーとして非常に重要だった

現代を生きる人間の病みや狂気がホラー映画の中でなく現実世界の出来事として語られる様は公開から38年経った今でもリアルな物として感じられる、見ていて非常に怖かった