にじのすけ

タクシードライバーのにじのすけのレビュー・感想・評価

タクシードライバー(1976年製作の映画)
5.0
この作品と「ゴッドファーザー2」のデ・ニーロが、一番好きです。(以下、ネタばれあり)
彼は「地下室の手記」や「金閣寺」の主人公と同類だと思う。70年代中盤、ブラックパワーの席捲やベトナム帰還兵に対する逆風の中、彼は大都会のボロいアパートや、タクシーの中や、映画館という「地下室」に閉じこもって、完全な孤独の中で自分を理解してくれない世間に対する憎悪を肥大化させていく。女性を恐らくは「娼婦」か「聖女」としか見られない彼は、ベッツィーにフラれることで、ますます歪んだ憎悪を育んでいく。ある種の孤独は時に「世間には容易に理解できないくらい自分はすごい人間なんだ」という誇大妄想を育む。後は行動(実証)あるのみ。大統領候補の狙撃は失敗。だが「聖女」に等しいアイリスに出会い、彼女をマフィアの手から救うことで、彼を排斥していた社会は彼をヒーローとして賛美する。ニュースを知って、ヨリを戻しに来たベッツィーを降ろし、余裕の笑みを浮かべながらタクシーをスタートさせるトラヴィス。バーナード・ハーマンの甘いサックスが流れ始めると、ふいに夾雑音が響き、ルームミラーに映るトラヴィスの目に凶気が閃く。彼はまだ何かやるつもりだ。もっとどでかい(恐らく今度こそは完全に反社会的な)何かを。21世紀になった今、端末あるところ世界中どこにでも無数のトラヴィスが存在しうる(僕だってそうなる危険性がないとはいえない)。本作が色褪せない理由はそんなところにもあると思う。
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