カマリス

転校生 -さよなら あなた-のカマリスのレビュー・感想・評価

転校生 -さよなら あなた-(2007年製作の映画)
4.2
あまりにも尖りすぎた作品で逆に忘れられない作品になりました。

本作は、1982年に大林宣彦監督によって作られた『転校生』を2007年に大林監督自身で舞台を尾道から長野県にしてリメイクした作品です。

なぜ大御所監督ほど老年になると、一般人には理解しがたい狂った作品を作るのでしょうか。

まず、最も何が一番狂っているって作中のほぼ全てのシーンが斜めに傾いていることです。
日常やコメディシーンでもシリアスなシーンでもなんてことないシーンでも、ほとんどのシーンで画面が傾いていました。
最初の最初から傾いていたので、逆に入れ替わる前だけ傾けて入れ替わってから真っ直ぐに映すというちょっと洒落た演出かなと思っていたのですが、最後の最後まで傾いており、
そのせいで、冗談抜きで見てる間ずっと、小骨が引っかかったような不安のようなものが最後まで続くことになりました。

さらに、これは気のせいかもしれませんが、最後に登場する道にぽつんとある墓石(そもそも道にぽつんと人の墓があるのがそもそもおかしい)に画面がクローズアップしていくのですが、画面の傾きに対してその墓石が逆向きに傾いていたように見えたのです。
恐らく、思春期という不安定な時期を表す演出だとは思いますが、まさか最後まで傾いているとは...。
この傾きへのこだわりに、本当に頭がおかしくなるかと思いました。

ストーリーとしては、もともと1982年の『転校生』からストーリーは大分緩さがあったのですが、本作は加えてその緩さと同時にシリアスさもパワーアップしており、本当に奇妙なバランスを醸し出していました。
前半は1982年の『転校生』とあまり変わらないのですが、後半が大きく変わってくることになり、そしてそれが本作をどのように考えたらよいのか分からなくなる所です。

同監督作品の原田知世版『時をかける少女』でも感じていましたが、女性の最もアグレッシブでありかつ純粋さを保っている「少女」としての時期を最も美しい時期と考え、あまつさえ物語の中で彼女たちをその美しさのまま閉じ込めておこうという性癖のようなものを感じ、そしてそれを本作でははっきりとセリフとしてヒロインに言わせたのがなかなか尖っていて面白かったです。
というか今回も時代にあっていない昭和文化が主人公周りには溢れており、これも『時をかける少女』と同じで少女を閉じた世界の住民にしようとしているのでしょうか。
ともかく、同時代の角川春樹監督にもそのようなふしがあるのは非常に興味深く思います。

登場人物の行動や発言も普通に考えておかしな所が多く正直全体的に記号的で、序盤はとくに説明口調×早口という(どうやら映画を40分縮める為に早回したらしい)なんじゃこりゃという所もありました。

ただ、やはりそれでもヒロインの歌や仕草で彼女が非常に魅力的に感じたのも事実で、坂口安吾が聞いたら激怒しそうですが「美しい少女のままで死ぬこと」に説得力を持たせるということにも成功しているようにも感じました。
そして、少年の成長ものとしても見れる。
さらにキルケゴールを扱い2人の愛に対してしっかりと死についての話題も提示してくる。

作中のセリフに次のようにありました。
「死んだ理由は分からないが、生きている理由は自分で見つければいい」
ストーリー的にはなんて手前勝手な発言であるように感じたりもするのですが、作品を通じて伝えたいことはこれかなとも思いました。
このような感じで、ふとしたセリフに非常に深い主張があるのも面白い。

つまるところ、ストーリーは結構無理があって記号的で演出も映像も狂ってる。
しかし、セリフや演出そして歌の端々からは愛や死、そして少年少女からの成長(それが監督にとって良いことなのかはおいて置いて)などという普遍的で哲学的な内容が扱われていました。
全体的に無茶苦茶でもその筋が通っていれば、心に深く残る作品ができることが分かりました。
やはりそれを作り出す、大林宣彦監督はすごい人でした。

(見終わってすぐに書いたのであまり、まとまっていません)
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