金宮さん

過去のない男の金宮さんのレビュー・感想・評価

過去のない男(2002年製作の映画)
4.0
カウリスマキの敗者三部作の二作目。「浮き雲」に続けての鑑賞です。(フォローさせていただいている方からコメントでおすすめ頂戴しました。ありがとうございます!)

個人的に浮き雲は人間ドラマを装った、超ハイセンスコメディという印象だったので今作もだいぶ構えて観ておりました。初っ端、暴漢に襲われやっぱり垂直に倒れる主人公に、きたきた!となったんですが、思ったよりボコボコだし、なんか喧嘩のしかたが可愛くないなあ、笑いどころじゃないなあ、が第一印象。

その印象そのままに、今作はどちらかというと人間ドラマ側に舵きりしてるように見えます。そしてそれはそれで最高なんです。

敗者三部作というだけあり、テーマはやはり「再生できるんだ」という人間賛歌。主人公は元々ギャンブル系クズだったようですが、記憶を失くしたあとは爽やかな活力にあふれています。優しい強盗からの給料配布依頼でピンハネしませんでしたもんね。

「みんな、根は腐ってないからーー」というメッセージ。カウリスマキ監督はその伝え方として泣き落としを選択してないところに、本音を感じます。照れ隠しのように、オフビートコントは顔を出す。「喰い殺すぞ!って脅してきた割に可愛いすぎるワン子ちゃん」「夜道が怖いから一緒に帰ってくれ、という新種の口説き文句」「みんな冷静だとこうなっちゃいます。的な強盗シーン」などはやはりクスッと笑っちゃう。

経済の停滞感はけっこう末期な感じもする。辛すぎる境遇にあっても、手を取り合う人々に主人公は救われました。監督の演出効果により、彼ら彼女らの優しさに「押し付け」は一切感じませんでした。

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・カウリスマキ監督。好きが確定したんですが、なんとなく北野映画と同じものを感じるからかも。無表情や唐突なオフビートコントなんかに共通点。

・まぁよく言われる、海外作品における日本文化への誤解。むしろ完璧なチョイスってはじめて観たかもしれない。海苔がちょっと怪しかったですけどちゃんとした握り寿司でしたよね。あと劇伴、クレイジーケンバンド!日本を演出する代表として彼らを選ぶなんて、わかってらっしゃるー。CKBが大切にしてる演歌要素は誇るべき文化です。
金宮さん

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