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侍のSadAhCowのレビュー・感想・評価

(1965年製作の映画)
5.0
2022 年 17 本目

水戸藩士が時の大老にして彦根藩主・井伊直弼を暗殺した桜田門外ノ変。江戸にたむろし始める水戸天狗党、その思想に共鳴して暗殺計画に加担する栗原栄之助、思想なんか関係ねえ俺は出世したいんだの素浪人・新野鶴千代。様々な思惑と疑心暗鬼の中、井伊大老暗殺計画は右往左往しながら進み、ついに鶴千代の出生の秘密が明かされるも、それを鶴千代本人は知るよしもなかった。

水戸藩は当時最大の藩校であった弘道館を有し、教育に力を入れていた。天狗党の面々も現在で言えばインテリなのだが、インテリはとかく「正義」に先走って極端な行動に出るものである。いまでもやたら血の気の多いインテリはいるけど、江戸のインテリは刀持ってるから……。その一方で井伊直弼は、幕府の崖っぷち状況を十分に理解していた有能な実務家であり、自分が狙われていることを知りつつも「んな馬鹿な、俺が死んだら幕府ほろぶで?」とか余裕かましてて、敵が多いのは確かだけどまさか暗殺なんてするほど馬鹿ではあるまいと、敵を過大評価していたのが仇になった。有能な人間は「他人もそこまで馬鹿ではあるまい」と勝手に想定して破滅するものなのである。他人はあんたほど頭良くないんだよ!

映画そのものは本当に凄いのひとこと。いやすごいわな……。モノクロだしセリフ聞き取れないとこ多いけど(日本語字幕つけてた)、なのに全然つまらくないし飽きさせない。千葉真一、筒井康隆、庵野秀明など後世の多くのクリエイターにもファンが多い岡本喜八がメガホンを取り、大老暗殺で一発逆転を狙う浪人・鶴千代を世界の三船、裏切り者と勘違いされた挙げ句に友と契った鶴千代に殺される栗原を小林桂樹、天狗党の冷血な首領・星野を伊藤雄之助が演じている。昔の役者って顔に迫力があるんよね……。
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