ユウの異常な愛情

スモークのユウの異常な愛情のレビュー・感想・評価

スモーク(1995年製作の映画)
3.5
私は喫煙しないが、かつてNYのストリートで見た、すれ違いざまに煙草の火を移して去っていった二人の男の情景があまりにも映画的で、あの格好良さは羨ましいと思った。

火があるか、と聞かれてライターを差し出す、そんな何気ない交わりが何かのはじまりになる。この作品でのすれ違いはもっとゆるやかで温かい。何気なくて、温かい。けれどどこか、寂しさや悲しさがただよう。煙草には、そういうところがある。だから最後のトム・ウェイツ。作中にトム・ウェイツが流れると聞いて、この映画を見ようと思ったのだった。

オージーが4000日欠かさずに撮影した同じ街角の写真をポールに見せながら、日々同じ顔も違う顔もある、新しい顔が現れて古い顔が消えていく、そんな説明をするシーンはこの映画そのものを象徴していた。

主演のカイテルは勿論なんだけど、私は作家ポール役のウィリアム・ハートがとても良かった。煙の重さの話をする所でグッと来た。
今電子たばこがはやっているけれど、あれは煙を出さないから、そもそも『煙草』ではない。この映画を勧めてくれたヘヴィースモーカーの友人が、あんなかっこよくないものを買ってまでも吸いたいの?と嘆いてた。

煙の重さは煙草のもっている情緒じゃないのかな。今のたばこからは煙が消えてしまった。それもまた時の移り変わりだろうか。