おくむらひ

ゼア・ウィル・ビー・ブラッドのおくむらひのレビュー・感想・評価

4.9
他人を見下し関わりたくないと孤高を望むが、野望のためには一番厄介なコミュニティに絡め取られることも厭わない。結局子どもも自分の下でいうことを聞くから置いていただけで、足手纏いと思えば孤児院に送るし独立を申し出されるとあんな態度になる。唯一、仲良くできていたはずの弟もなりすましだと分かれば殺してしまう。そして、そのプレインビューのとんでもないサイコパス加減に勝るとも劣らない、最早カルトと言って良いほどの狂信性を発露させるイーライ。ポール・ダノは派手な演技をしなくてもその身体に不穏さや狂気を宿すことができており、映るだけで何か良からぬことが起きそうでたまらない。
そんなプレインビューとイーライの対峙から、善悪の彼岸を飛び越えて人間とは何かを考える話として楽しめる。もしくは、プレインビュー側に焦点を当てれば、金や権力欲の行き着く先の話にもなる。それだけでなくさらに別のレイヤーから、都市のジェントリフィケーションの話として解釈ができてしまうのがこの作品の秀逸なところだと思う。
プレインビューは土地を押さえ石油を掘る。これを再開発と置き換え、イーライはある商店街振興組合の長とでもしておこう。商店街の周りの土地に再開発の話が出て、その恩恵を受けられるかと思う。しかし、大資本はその地域の文化を考慮することなく、土地を片っ端から買収して地域を解体し勝手にショッピングモールを建てる。ショッピングモールが客を吸い上げて、商店街は潰される。これがプレインビューの言う、他人のミルクセーキを飲む行為ではないだろうか。もちろん、捩れのあるアナロジーではあるが。
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