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風花のodyssのレビュー・感想・評価

風花(1959年製作の映画)
3.0
【映像はすばらしい】

1959年の邦画。BS録画にて鑑賞。

戦前から戦後間もない頃の田園地帯や豪農の屋敷を映し出す映像がとても美しい。シネマスコープサイズを十二分に活かした、よく考えられた構図が随所に見られます。映像面ではほぼ満点と言っていい映画です。

他方、筋書き的には、悪くはないと思いますが、さほど感心もしませんでした。豪農の次男と心中をしながら自分だけ生き残り、しかしお腹の中にすでに赤ん坊がいたので渋々豪農家に引き取られたヒロイン岸惠子。だけどそのあとの展開がいかにも旧家の封建制に泣く母子という、一昔前にはありがちなじめじめした日本的なもの。もう少し何とかならなかったものですかね。私は邦画のしめっぽさは嫌いなんで。

ちょっと面白いのが、東山千栄子の役ですね。渋々引き取った母子につらくあたる名家意識丸出しの祖母ということで、いわば悪役なんですけど、最後に孫娘(久我美子)が嫁に行くところでうっぷんをぶちまけている。彼女は昔8歳年下の名家のおぼっちゃんと出来ちゃった婚(という言葉は当時はなかったけれど)をしてこの家に嫁として入り込んだ。そういう、言わば陰口をたたかれやすい立場にあった彼女の積年の思いが出ている。単なる悪役では終わらせなかった木下監督の巧みさがうかがえる。

他方、そういうわけで祖母は8歳年下のお坊ちゃんとできちゃった婚をし、その次男坊は岸惠子となさぬ仲になって心中を図ったことに比べると、岸惠子の息子が伯父の娘(久我美子)のことをうじうじと想い続ける筋書きがどうにも歯がゆくなってくるのです。久我美子の態度も、一見すると差別されている従弟に優しくしてあげているようではあるけれど、この優しさは或る種の優越感の結果であるようにも私には見え、もしそうでないならもう少し従弟の恋愛感情に応じていてもいいんじゃないかと。何しろ祖母と叔父はいずれも自分の意志を押し通して出来ちゃった婚と心中をしているんですからね。

そういうわけで、肝心の最後の世代が思い切らないというところが、この映画の最大の難点ではないか、というのが私の感想です。
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