半兵衛

胎動期 私たちは天使じゃないの半兵衛のレビュー・感想・評価

3.7
新東宝末期の為なのか無名の女優たちが主役なので最初は誰が誰なのかを把握するのに一苦労するが、物語が進み彼女たちのバックボーンが見えてくるにつれて自然に感情移入できる。また当時の看護婦寮における封建的な仕組みやプライベートを許さない半ば監視されているかのような生活をこと細かく描いて彼女たちが組合を作って生活を向上させようとしているのを見てる人に納得させ、その上で看護婦寮に勤めている教師である看護婦たちが抱えている問題などもきちんと描き、単純な視点に陥っていない重厚な作品に仕上げているのはさすが新藤兼人先生。

「カッコーの巣の上で」のルイーズ・フレッチャー、「女の園」の高峰三枝子など、この手の映画で は「高圧的な教師」的なキャラクターが出てくるが、この作品では千石規子と大塚道子が担う。いずれも恐いくらいハマっており、千石演じるベテラン看護婦は口調は丁寧だが目は笑ってなく、穏やかだが高圧的な態度や台詞、大塚演じる看護婦は理事長や先輩看護婦からプレッシャーを与えられてはいるものの、生徒の日記を勝手に読んだり、生活向上を訴える生徒たちを無表情で追い返す姿はいずれも憎々しさを与える。だからこそ看護婦寮を退学させられた三原葉子が千石に「くたばれクソババア」と罵りビンタするシーンは爽快感がある。

主役があんまり喋らない(秋田訛りがあるためだが)設定にしたのか疑問だったが、ラストシーンを見て納得した。従順で優等生、大人しい彼女だからこそ、ラストに叫ぶ封建的な学校への怒りが伝わってくる。でも主人公の行動が60年たった今でも感動できるということは、現代の日本にも封建的な思考が残っているということなんだろうな。

三輪彰監督の演出はバイオレンスシーンなどで冴えを見せ、三原葉子のビンタや学生の喧嘩シーンなんか今見ても迫力がある。特に学生の喧嘩は結構長回しでやっていて、ワンシーンで「女学生が扉にぶつかる→扉のガラスが割れる」の流れは演じている役者が怪我しているのでは?と思うほど。あと激しく降る雨のなか、主人公たちが走りながら移動するシーンは石井隆っぽい。

そしてこのラストは10年後の「恐怖女子高校 女暴力教室」で更にストレートな形で披露される。
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