にじのすけ

ヒア アフターのにじのすけのレビュー・感想・評価

ヒア アフター(2010年製作の映画)
3.6
旅行先で遭遇した津波に巻き込まれ、臨死体験をしたフランス人ジャーナリスト、双子の兄を不慮の事故で亡くしてしまった少年マーカス、霊能力を持つ代わりに孤独な人生を歩むことを余儀なくされられた青年ジョージ。「死」に関わることで周囲の人間とは全く異なる世界に陥り、誰にも理解してもらえない孤独を味わうことになってしまった3人が、運命の導きの中で触れ合うことであるいは深い心の傷が癒され、あるいは真の理解者と出会うことができるまでを描いた作品。
いわゆる死後の世界らしきものや死者と交信する様なども描かれてはいるが、本作の主題は死後の世界を描くことにはない。むしろ死と関わることで生きることが困難となり孤独に苛まれるようになった人間が、いかに癒され立ち直っていくかという、実に普遍的なテーマを正面から扱っているのである。一歩間違えばオカルトチック(荒唐無稽な話)になってしまうこの難しい脚本を、イーストウッド監督は実に手堅く、しっかりと地に足のついた演出方法で丁寧に、哀切を込めて、素晴らしい映像に焼き付けることに成功している。その手腕の見事さには本当に驚かされる。特にラフマニノフの美しいピアノコンチェルトが流れる中、亡き兄ともう一度だけ話したいという思いから、霊能力者を求めて彷徨い歩く幼いマーカス少年の痛々しくも必死な姿が、忘れられない。ラストについては少し食い足りない感もあるが、この映画全体に流れる静謐なトーンを考えれば、余韻を残した素晴らしいエンディングといえる。イーストウッドの作家としての引き出しの多さと奥深さを感じさせる良作。
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