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ツィゴイネルワイゼンのbennoのレビュー・感想・評価

ツィゴイネルワイゼン(1980年製作の映画)
5.0

バイオリンの物憂げな音色…サラサーテの名曲"ツィゴイネルワイゼン" (好きな曲♪)が流れる中…ふたりの男の問答がカットイン…。

「何て言ったんだろう?」
「君にも分からないか?」

そのレコードには自らバイオリンを弾く作曲家サラサーテの謎めいた声が入っていたのです…。

そして物語もそれ以降、このレコードと同じくスッキリとは答えの出ない摩訶不思議な世界へ…。観る側は主人公と共に徐々に平衡感覚を失っていきます…。

ちょっと度肝を抜かれました…こんな日本映画があったとは…この作品はあらすじが書けません…。

冒頭から漂う死臭…ツィゴイネルワイゼン(ジプシーのメロディ)を内在するような中砂(原田芳雄)…死の匂いを放ちまくるセクシーさと狂気…それとは対照的に彼の友人で主人公の士官学校教授、青地(藤田敏八)…戸惑いながらも朴訥とした大人の抑えた演技がとてもいい…

今作では"死"を強調する為の"生"として退廃的なエロティシズムと夥しい食のシーン…。

「腐りかけが一番いいのよ」と中砂は青地の妻・周子(大楠道代)の肉体を貪り、周子は腐りかけた水蜜桃にむしゃぶりつきます…。

また、ひとつ間違えばギャグにしか見えない非合理なシーン…失笑とはならず、人の悲しみに繋がっているように感じます…。
海に身を投げた女の股からカニが這い出し巨大化…
青地が赤ん坊・豊子を見せてもらう時、壁が自動ドアのように開閉…
盲人の門付け師弟が砂浜でモグラ叩きの死闘…

主人公青地と共に、観ている側も死んでいるような"生きてる人"…生きてるような"死んでる人"たちに翻弄された挙句、あの世とこの世を行ったり来たりします。

そんな中でもお気に入りは大正ロマンの極彩色…アール・デコに通じるファッション…所謂モガと言われる大楠道代のボブヘアに真っ赤な口紅…洋装も良いけれど…何と言っても着物ファッション!! モダンな着物柄が素敵過ぎます…大好きな映像のトーンです。

そしてエンディングは…豊子(青地の子供かもしれない)が迎えにやって来ます…。そこには六文銭の草履の跡が…そう…亡くなっていたのは………

見事な物語の収斂…何もかもが夢幻のよう、確固たるものはありませんが…映像が訴えかける迫力にただただ感動です。

原作、内田百聞の『サラサーテの盤』…鑑賞後に読みましたが…レコードの件以外はかなりアレンジされています。
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