ねむみ

ドリームガールズのねむみのネタバレレビュー・内容・結末

ドリームガールズ(2006年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

公開前から「ビヨンセ主演の映画制作中!」とか、公開時は「ジェイミー・フォックス演じるカーティスという男の栄枯盛衰の物語!」とか、公開後は「ジェニファー・ハドソンがビヨンセを食ってしまった!」とかとか…
結局誰が主役なんだよ…と混乱もしたし、ミュージカル特有の登場人物がそれぞれ感情を歌い上げる形式もあって1人にフォーカスしづらく、目が散って、物語としての構成はしっちゃかめっちゃかじゃないか…というのが公開当時に見た時の感想でした。

しかし”60年代から70年代にかけての当時の黒人ショービズ界をめぐる群像劇”なのですね、これは。大人になって冷静に見てやっとわかりました。
良きプロデューサーと共に時代に乗って輝くディーナ(ビヨンセ)、時代に乗り損ねたけど常に自分の歌唱力を信じて這い上がろうとするエフィー(ジェニファー・ハドソン)、ディーナやジミーを常に支え続け影として生き残るローレル(アニカ・ノニ・ローズ)、手段を選ばずのし上がった結果全てを失うカーティス(ジェイミー・フォックス)、ソウルを信じた快楽主義ゆえに薬物に溺れて命を落とすジミー(エディー・マーフィー)、カーティスに引っ張られるも自分の信じる楽曲を諦められなかったCC(キース・ロビンソン)…
60~70年代の世相もファッションもスタイルも盛り込んで、目まぐるしく変遷する時代を生き抜くためにそれぞれがした選択とその顛末を描いたアンサンブル、だと理解しました。

もちろん物語はスプリームスのダイアナ・ロス達とモータウン・レコードの話を脚色したものではあるので、事実と創作が入り混じった邪推も止まらないのですが、ドリームワークスならではの意地の悪い演出とキャスティングもなかなか効いています。でも、これはちょっと意地悪すぎるかな…

ガールズタイムから始まり、両親プロデュースのディスティニーズ・チャイルドとしてデビューし、ビヨンセばっかり目立って!という軋轢や度重なるメンバーのクビ・入替えを経験しつつも、ソロとして他メンバーとは残酷な程に次元の違う成功を収めているビヨンセ。
映画の中でいうカーティスは、今はもう縁を切った元プロデューサーの父親か、はたまた現在は夫となったジェイ・Zか…また、ローレルはDCでいうケリーか…エフィーは初期メンバーのラタヴィアやラトーヤで、ミシェルはそのまんまDCのミシェルかな…でも映画のミシェルはどことなく一瞬でクビになったファーラに雰囲気が似てる…?なんてなんて、こちらも邪推が止まりません。

他の登場人物の意地悪キャスティングも気になりつつも、ビヨンセについてもう少しだけ語らせてもらうと…
DCのクリーンで強い女性像から、ソロ開始時には流行りのエロ路線に振り切ってかなり悲しんだ時期もありました。ただ、その爆発的ヒットによって「ディスティニーズ・チャイルドのセンターの子」から「ビヨンセが昔いたディスティニーズ・チャイルド」まで逆転し、今や時代を自ら作る存在まで見事に上り詰めつつ、ちゃっかり流行りのアーティストとのコラボは外さない、まるで時代に上手く乗って成功するディーナのようでした。ただ、ここ数年は自身のアイデンティティを掘り下げたり、BLM運動を牽引する存在になりましたが。

ビヨンセ大好きファンとしてまだまだ言わせてもらうと、ビヨンセは歌唱力を大分抑えてます!デスチャ時代から比べても今の歌唱力はとんでもないものに成長していますが、映画当時を見ても、エフィーの歌唱力に圧倒され続けるディーナでも感情が高ぶった時の「It's all over」や「Listen」だけは喰らいついてってます。ビヨンセ自身の歌唱力は劣っていないし、その時代を代表する”スタイル”を総合的に体現するディーナとして完璧だと思いました。

”スタイル”でいうと、エンドロールで主要キャストが垢抜けない子供から大人の女性になるまでを、60~70年代の華やかなファッションとスタイルにのせて一気に見れるところの見応えが半端ないですね。
男性陣もヒゲや髪型や細いスーツのディテールは変わっていますが、おしゃれで強い女性たちに比べると微差でしかなかったです(笑)

裏に隠れたダークな部分やその時代の現実(黒人差別、ベトナム戦争)を抱えつつも、表では明るく綺羅びやかなショービズ界の描き方も最高だし、曲も一曲一曲がとても印象に残る、最高の映画です。
初めて観た時はすごく若かったし、見ながら混乱しまくっていたので、なんでこんなにたくさん賞を獲ってるのか正直わかりませんでしたが、今なら納得です。

また10年後、20年後は、当時のキャスト達がまた進化してまた違った見方ができるかもしれないですね。楽しみです。
ねむみ

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