angie2023

タンポポのangie2023のレビュー・感想・評価

タンポポ(1985年製作の映画)
-
食べることをテーマにしたこの映画は、まさにバイキングに行っているかのような作品だった。そう、途中に何度か示されるような、格式ばったフレンチ料理のフルコースではない。バイキングだ。さまざまな料理が混ざり合い、好きなものを好きなようにとっていって、で、メインになるような、例えば蟹とかローストビーフとかステーキとかが、「タンポポ」の物語である。他のエピソードは「タンポポ」と交わることはないが、だからと言って無駄ではない。食事はサラダから始めたいし、ずっとローストビーフを食べているとくどくなるから、さっぱりとフルーツをいただきたいし、たまには天ぷらなんて食べたい。しめはカレーだと決まってる… そういった欲張りなバイキングの欲望が、この映画には全て詰め込まれている。短くテンポの良いストーリーが挟まれていくことで、味は重なり合い、豊かなハーモニーを形成する。それは余韻というよりかは、どちらかというと、刺激的。スパイスのようだった。一つ一つのストーリーは、風刺もあればユーモアもあり、毎回泣きそうなくらいの笑いが込み上げてしまうほどだった。それらを「タンポポ」と交互に堪能することは、非常に贅沢で、そして、安上がり。一つ一つは高級でも良質でもないけど、B級っぽい美味しさがある。

食べることは滑稽だ。だが、力があって、必要不可欠だ。無駄にも思えるが、人を熱狂させることもできる。食べることは面白い。マナーやルールを巡るあれこれ、歯を痛めて食べるソフトクリーム、老人を殺し続ける餅、最期の晩餐、性と死とともにある食事、そしてラーメン屋の縄張り争い。食べ物を中心に、人間たちはあまりにも滑稽に、暴れ続ける。これがまあ、面白いのだ。全てのストーリーが、本当に面白くて、声を上げて笑ってしまった。(ああ、映画館で見ることができたら、どんなによかっただろう!)コントのようなシュールさがありながら、確信をついている。テンポ感も、俳優の贅沢づかいも、大好き大好き。

肝心のメインの「ラーメンウェスタン」は、笑いに加えて、涙もあってしまうから、参った参った。タンポポが作り上げたラーメンを、彼女を助けるヒーロー軍団が器を持ち上げて、飲み干すシークエンスの美しさ。(同時に滑稽さもあるのだが)西部劇のフィナーレのように盛り上がるクラシカルな音楽に釣られ、ついつい泣いてしまった。やられた、ゴテゴテのはずなのに、感動してしまう。そう、この作品は山崎努の頭に被せられたカーボーイハットのように堂々と、ウェスタンの二番煎じをやっている。それはごっこ遊びなのだ。縄張り争いから、未亡人と子供を守り、再び勝利と平和をもたらすために奮闘するアウトロー、そして紆余曲折ありながらも集まった仲間たち。クラシカルな曲も、宮本信子の服まで含め、この映画はウェスタンのごっこ遊びだった。それはわざとらしく、だから滑稽に笑えるのだが、だが、最後にはすっかり感心して、涙まで流してしまうのだから、参った。白いお店に生まれ変わり、ラーメンをテキパキと作るタンポポの姿に、心の底から、よかった、なんて思ってしまうわけだから、私は都合の良い観客だ。
 
angie2023

angie2023