似太郎

大阪の宿の似太郎のレビュー・感想・評価

大阪の宿(1954年製作の映画)
5.0
本作で大阪に左遷された佐野周二演じる「正義漢」エリート商社マンに対して何やら反発心を抱いてるレビュアーが多いようだが、いまこういう古き良きモラリストみたいな主人公が減った為、観賞中実感が伴わないのかも知れない。

ただ単に時代が悪かった…。というか、微妙に現代とリンクする箇所も多い。誰もがカネ、カネ、カネで人間は何処へしまったのだろう?という主人公の失望感、嘆きはどこかしら現代的である。

五所平之助はあくまで自然主義的なタッチで庶民の哀歓を紡いでいるだけで、当時流行ったいわゆる「社会正義」とは無縁の監督だと思う。この手の邦画らしいウジウジ感は微塵もなく、むしろ画面が洗練されていてモダン。全編バタ臭く洋画でも観てるような雰囲気すらある。

各々の役者のアンサンブルはそれこそ神懸かり的。乙羽信子、水戸光子、若き日の左幸子等々…。大阪ロケのどこか霞んだ映像美から発散されるエモーショナルは相当なモノ。

いまならYouTubeやアマプラですぐ観れる作品だが、ぼくなどは本作にのめり込み過ぎて中古DVDまで取り寄せてまで買ってしまった。(高かったけど)。それくらいお気に入りの作品で、どうもこの屈折した主人公や落ちぶれた登場人物達の練りなす人間関係に魅せられているようだ。

内容的に明るくはないけれど暗くもない。脚本、演出面でのバランスが総じて完璧だった作品。文句無しの名作である。
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