Arata

寝ずの番のArataのレビュー・感想・評価

寝ずの番(2006年製作の映画)
4.2
伝統芸能関係のお仕事をされている知人の勧めで鑑賞。


その方曰く、「死をとにかく明るく描いた作品。下ネタが多いが、下ネタ=(イコール)生の象徴なので、生と死の同居。」とおっしゃっておられた。

原作は中島らもさん。未読なので、ぜひ読みたい。

津川雅彦さんの初監督作品で、キャストも実力派揃いの豪華な面々。

2006年の作品なので、お亡くなりになられている方の在りし日の姿や、現在も活躍されている方の若い姿も、見所と言っても良いかと思う。


【あらすじ】
人が亡くなり、故人を想い、成仏を願い寝ずの番をする。

そこで繰り広げられる思い出話は、時に思いもよらない方向へ進んでしまう。

ただそれだけの話だが、それがとても美しくもあり、滑稽でもあり、馬鹿馬鹿しくて、悲しくもある。

そんなお話。


【感想など】
・死人のかんかんのう
この作品の最初の寝ずの番は、一門の師匠。
一説によると、6代目笑福亭松鶴がモデルとの事。
松鶴師匠の得意ネタの1つが「らくだ」と言われている。
残念ながら師匠のらくだは聞いた事がないが、色んな方が演じており、どなたが演じても大変に可笑しく、毎度笑わせていただいている。
※YouTubeなんかでも聞けたりもするので、興味のある方はぜひ。ただし、50分くらいある大ネタなので、その点ご理解されたし。

そのらくだの中の名場面として、亡くなった人間に「かんかんのう」と言う、当時の流行の踊りを踊らせると言う箇所がある。
いつもは、頭の中で「死人のかんかんのう」を想像していたのだが、映画ではあるが初めて映像で見る事が出来た。
このシーンは、細やかな笑いやファンタジー、それに感動が散りばめられていて大変素晴らしい。


・都々逸対決
堺正章さんと中井貴一さんの、周りを巻き込んでの都々逸対決歌合戦は、とても面白い。
映画とは言え、お二方をはじめ、ここに出演されている皆さんの芸達者ぶりが、面白さを倍増させている。


・ファンタジー
酒を飲みながら寝ずの番をしていると、不思議な体験が毎回起こる。
しかし、それらは「酔い」が見せた幻覚なのか、それとも心霊的な「超常現象」なのか、よく分からない様子で描かれている。
どちらかをはっきりとさせる事は、野暮とも思える。
何故その様な現象が起きたか等では無く、どれだけ強い気持ちで故人を偲んだかと言う事が重要だと言っている様だった。
ラストの列車の歌遊びでは、先に亡くなった師匠と兄弟子さんも駆けつけての大団円。


【お酒】
弔い酒(徳利の燗酒)。

終始飲みっぱなしなので、あまり印象には残らないが、要所で目立つのは燗酒。

おかみさん連中が運んでくるシーンや、極自然な様子でお酌をするシーンなどが多数。
都々逸合戦で、息切れをして倒れてしまった堺正章さん演じる男へ、慌てて飲ませていたりもする。


弔い酒の歴史は古く、仏教の伝来よりも古い。
お酒やお米は「生の象徴」と言われ、大量に体内へ取り入れる事で、穢れ(けがれ)を寄せ付けないとされている。
そう言った意味からも、米のお酒である日本酒はうってつけ。


師匠が亡くなった時の寝ずの番で、兄弟子が洒落で「乾杯」と言っているが、本来であれば「献杯(けんぱい)」。
この場面では、「師匠のあの世行きを祝しまして〜」と言う洒落っ気たっぷりの挨拶の後の敢えての「乾杯」に、師弟愛を感じる。



【総括】
お葬式は、主役が居ない(亡くなっている)不思議な集い。
思いがけず故人の秘密を知ったり、思い出に触れたり、風変わりな出会いがあったりと、死がとりもつ縁を感じる。

ファンタジーと酔っ払いの紙一重、下ネタは生の象徴、まさに生と死の交差点の様な作品だった。
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