すえ

テンペストのすえのレビュー・感想・評価

テンペスト(1928年製作の映画)
5.0
記録

■1928/アメリカ/24コマ/102分
ユナイテッド・アーチスツ作品

■監督
ハロルド・ロイドの長編『用心無用』などの喜劇で知られ、本作の翌年29年にはメアリー・ピックフォード主演作『コケット』でも知られるサム・テイラー。

■美術
『テンペスト』と『赤い鳩』で第1回アカデミー美術賞を受賞したウィリアム・キャメロン・メンジース。

■撮影
27年のF.W.ムルナウ監督の『サンライズ』でのカール・ストラスとの仕事で、特に高く評価され第1回アカデミー撮影賞を受賞したチャールズ・ロッシャー。その後の白黒撮影の手本となり、ハリウッド流の照明スタイルを確立させた。

■ジョン・バリモア
兄と姉と共に「バリモア三兄弟」として20世紀初頭のブロードウェイの名優として知られ、1922年の舞台「ハムレット」は当時の最長上演記録を作った。無声映画の絶頂期である20年代には映画に出演し、ジキルとハイドを演じた『狂える悪魔』やドン・ファン役でも世界的に知られるように。『愛の嗚咽』『グランドホテル』『晩餐八時』『特急二十世紀』などでも活躍するが、1942年には亡くなった。

■カミルラ・ホルン
ドイツ映画の黄金時代の〈UFA社〉のエキストラだったが、F.W.ムルナウに見いだされ『ファウスト』のグレッチェン役でスターに。しかし、1年でユナイテッド・アーチスツ社のジョセフ・M・シェンクに引き抜かれハリウッドに招かれた。

■あらすじ
帝政ロシア末期の1914年ヴォリンスク。革命軍が迫る中、ロシア皇帝に忠誠を誓う農奴出身の軍曹イワン・マルコフ(ジョン・バリモア)に接触する革命軍のスパイがいた。親友のブルバ軍曹(ルイス・ウォルハイム)も帝国には疑問を抱いていたが、イワンは将軍に認められ中尉に昇進した。普段は任務に懸命なイワンだったが、貴族でもある将軍の娘で隊長の婚約者であるタマラ(カミルラ・ホルン)に一目惚れ。酔ってタマラの部屋に侵入したことで逮捕され地下牢行きに。そんな時、革命の日がヴォリンスクにも広がり、イワンは革命軍の指揮官に…
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活弁&演奏付きのフィルム上映で、貴重な体験だった。

“狂騒の20年代”の大傑作で重要作。ロマンスを軸に描かれるロシア革命の兆し、そして革命による貴族と農奴の上下関係の逆転。ものすごく出来が良い、もっと世に知られるべき作品。

今作はショットの強度云々よりも役者の顔面そのものが力強く、比類なき魔力を持っている。ジョン・バリモアとカミルラ・ホルンが、ただでさえ容姿端麗な上に素晴しい演技をする。それを際立たせているのが、これまた素晴らしい照明。その照明が役者の魅力を極限まで引き出す。涙の1粒、その煌めきまで写し取ってしまう、あまりに尊大。

言葉のリフレインにより立場の逆転を強く示す。また、構図における占有率、位置関係により提示される上下関係の逆転は、今でこそ弱くなりつつある映像の魔力によるものである。

言葉(音声)も色もない世界、表現手段が今よりも限られていたからこそ、それを究め、ここまでのものが出来たのではないかと思う。バザンは、我々が映画に求めるものはリアリズムであるから、音声のついたトーキーの方が我々の本質が求めているものだとしているが、果たしてそうなのだろうか。無声映画でしか辿り着けない頂きがあるのではないかと思うのだ。

2024,62本目(劇場16本目)3/16 プラネットプラスワン
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