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桐島、部活やめるってよのfmのレビュー・感想・評価

桐島、部活やめるってよ(2012年製作の映画)
3.3
『スパイダーマン:スパイダーバース』に続いて、フィルマークス主催のプレチケで鑑賞。

高知県での美しい撮影と、美しい若手俳優(とくに橋本愛の神々しさ!)の活躍を群像劇として観るぶんには秀逸なのだが、本作の肝になっている「部活」に縁がないため、もひとつ血肉化できない。
私は小中高と運動部に入ったが、どれも一年経たぬうちに幽霊部員となり、自然と帰宅部に移行した。
大学ではサークルに入らなかった。
集団行動が苦手な自分にとって、部活はやめるのが前提なのだ。

出身地がマイルドヤンキー文化圏のため(言うまでもなく私はヤンキーではない)、「映画部」などという立派な部は存在しなかった。
文化部と言えば、極少人数の文芸、手芸、囲碁将棋、ぐらいのもので、生徒はほぼ強制的に運動部に放り込まれ、適性のないものが順次帰宅部に流れ着くのが母校のお決まりパターンだった。

当時の私は今のような映画好きではなく、映画と言えば金曜ロードショーで観るか、よほどの超有名作であれば年に数回誰かに誘われて観に行く程度。
したがって、主人公の前田のように若くして、ロメロ、タランティーノ、塚本を認識し、さらには自主映画を作るような人間はとても立派に見えてしまう。
彼らがいわゆる「スクールカースト」の下部に位置しているとは思えない。
キラキラしたまっとうな少年たちであり、いざとなったら立ち上がる勇者である。

では、帰宅部の私は何をして学生時代を過ごしていたか。
もっぱら音楽鑑賞とラジオ鑑賞である。
雑誌で言えば、映画秘宝ではなくミュージックマガジン(とレコードコレクター)を愛読していた。
「萩原健太、中山康樹、村上春樹、山下達郎、細野晴臣などが言及している歴史的名盤を聴いて、それをどこまで感覚的に理解できるか」という修行を自らに課していた。
とにかく苔のむすまで名盤チャレンジを続けた。
『Pet Sounds』『On the Corner』『Illmatic』『ヘッド博士の世界塔』の良さがわかった時の快感は今でも体内に残っている。
『Trout Mask Replica』『The Piper at the Gates of Dawn』などは何度聴いてもわからなかった、それでもいつかはと思って聴き続けた。
そんな青春。
今振り返ると、あの妄執は何だったのか…

というわけで、運動部にも文化部にも色恋にも縁がなく、かといって菊池(東出)のように「高スペックゆえに無趣味」という身分でもない自分からすると、自己投影するキャラがいないのだ。
とはいえ、文科系同士の不毛なマウントの取り合い、スモールサークルのジトーっとした冷笑趣味(松岡茉優が好演している)、あるいはキャプテン(高橋周平)のように妙に親しく接してくれる体育会系同級生など、リアルだとは思う。

もうひとつの核になっている「桐島の消失」についてはさほどの関心は持てなかった。
おそらく「絶対王政が突如崩壊して戸惑う人々」みたいなものと推測するが、それはそれで、というかそっちの方がよくわからん話である。

ハイライトはやはり劇中劇の『生徒会・オブ・ザ・デッド』。
そこだけフィルム調になるあのシーンには他の映画にない強度がある。
帰宅部の私からしても語りしろのある映画だから、そりゃあブームになるわけだな。
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