天馬トビオ

挽歌の天馬トビオのレビュー・感想・評価

挽歌(1957年製作の映画)
3.0
コケティッシュで露悪的、両切りタバコをくゆらせ、中年男性を誘惑する久我美子。早春から初夏の釧路を舞台に、その小悪魔的な魅力が描かれる。森雅之演じる中年男性、桂木を誘惑し、翻弄すると同時に、桂木夫人にも憧れ、甘え、いじめる。そのアンビバレンツ。そして、やがて訪れる悲劇……。

ただ、この映画はそれだけの不倫映画ではない。

全編にそこはかとなく漂う「死の香り」……。霧が流れる釧路の町並は、さながら冥界の趣。ダフネという名前の喫茶店からは、「白鳥の歌」が聞こえてくるようだ。ギリシャ悲劇を思わせる舞台設定。原作を意識した文学性がうかがえる。

ところで、ぼくは秋吉久美子主演のリバイバル(1976年公開)をリアルタイムで観ている。その際に話題となったのが、オリジナル、つまり本作で絵のモデルを頼まれた久我美子が「ヌードは嫌よ」と応える場面を、秋吉久美子は「ヌードじゃなくちゃあ嫌よ」と変更したことだった。当時のマスコミは、時代が変わったね、みたいな論評で片付けていたが、ぼくは、完璧とも言えるオリジナルへの彼女流の対抗心の表れだったと思っている。
天馬トビオ

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