うめ

ドライヴのうめのレビュー・感想・評価

ドライヴ(2011年製作の映画)
4.3
 2、3年前に観たときはいまいちピンと来なかったのだが、最近、観る機会があってたまたま観ていたら…なんとかっこいいのだろうかと気づいた作品。この種のかっこよさ、『ミラーズ・クロッシング』以来だ。ニコラス・ウィンディング・レフン監督×ライアン・ゴズリングのコンビ第一弾。

 昼はスタントマンや自動車修理の仕事をし、夜は強盗の逃がし屋をする主人公「ドライバー」。仕事はいつも完璧にこなすも、寡黙で孤独なドライバー。そんな彼がある日、アパートの同じ階にいる人妻アイリーンとその息子ベニッシオに出会い親しくなっていく。ドライバーとアイリーンが互いに惹かれ合うようになったとき、刑務所にいたアイリーンの夫スタンダードが戻ってくる。アイリーンとベニッシオを守るため、ドライバーはスタンダードの仕事に手を貸すのだが…これをきっかけに、結末に向けてどんどん事態は展開していく。

 ドライバーは全編を通して、言葉少な。そもそも名前がない。運転技術が優れている「ドライバー」、ただそれだけだ。だが、そんな謎だらけで寡黙なドライバーの代わりに物語を語るのが、様々な光の演出だ。

 この作品はスペインやメキシコ系の映画のように色の輪郭が非常にくっきりしているが、夜のネオンや蛍光灯の青白い光によってどこか冷たい印象を与える。冒頭仕事をこなすドライバーに当たる光は、ドライバーの孤独で冷えきった心を表しているようだ。そして後半、バイオレンスな描写から来る真っ赤な血の色がさらに青白い光の印象を際立たせる。ここでの光はドライバーの冷酷さやそれに伴う生気のなさを感じさせる。一方、前半ドライバーがアイリーンとベニッシオに接するシーンでは、太陽光が柔和な印象を与える。この光がドライバーの人間らしさを表現している。その場のドライバーの笑顔と相まって、ドライバーにとって愛おしい瞬間であることが感じ取れる。こうした演出で作品をスタイリッシュにするだけでなく、画面全体で何かしらの意味を表現しているのが素晴らしい。

 ドライヴというと『タクシードライバー』を思い出すが、同じドライバーでも全く異なっている。今作のドライバーはただまっすぐ、目的地だけを見据えて車を走らせる。ドライヴする(運転する)という行為が彼の意思の表れと言ってもいいだろう。同時に彼にはドライヴしかない。優れた運転技術で正確に目的地に辿り着くことができるドライバーでも、守るべき2人に対する不器用さゆえにハンドルを過ってしまう…この「不器用さ」が何とも言えない。そしてあのラストのドライバーにかかる夕陽(太陽の光の中でも、また夕陽を選ぶっていうのが何とも言えないですねぇ)。あれはやられます、完全に。

 キャストについては文句なし。ライアン・ゴズリングやキャリー・マリガンが素晴らしいのはもちろんだが、脇を固めるスタンダードやマフィア達がいい味を出している。ライアン・ゴズリングが当時ここまでハードな役を演じているのを見たことがなかったので、とても新鮮だったのを覚えている。(あ、そう言えば余談だがキャリー・マリガンとオスカー・アイザックは『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』でもカップルを演じていますね。二人ともキャラ全然違うけれども(笑))

 ドライバーが何故アイリーンに惹かれたのかが少し気にはなったけれども、でもそれ以上に演技や映像で魅せてくれたので満足。今年の鑑賞作品で目が離せなくなった作品3本目だったなぁ。
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