おくむらひ

となりのトトロのおくむらひのレビュー・感想・評価

となりのトトロ(1988年製作の映画)
3.8
昭和30年代の里山の生活感を映すため、起承転結ではなくただの日常を切り取るように物語を構成している。ただ里山に越してきた姉妹がはしゃいでいるだけでは特に惹きつけるものは本来では無いはず。もちろんジブリのアニメーション表現の味わいはあるが、後作の紅の豚のようなアニメーションだから表現できる運動エネルギーなるものは目立って描写されない。走り方は可愛いけれど。その代わりに前半ではまっくろくろすけやトトロの登場などデフォルメされた谷崎潤一郎の陰翳礼讃的表現で、自然の得体の知れなさを静かに描写する。後半では病院からの電報とそれを受けてのメイの失踪によって、姉妹が道を踏み外して惨事が起こるかもしれない焦燥感を明確に浮かび上がらせ、観客を惹きつける。
姉妹の妹が異形のものと出会い変化していくという物語の建て付けは、ビクトル・エリセのミツバチのささやきと同じものだ。参照元として公言されているだけはある。ミツバチのささやきは無垢な少女の危うさに当時のスペイン政治への批判を乗せて作品の緊張感に変換する発想だったが、この作品では政治的な要素の代わりにより姉妹の危うさに注目されるように作られている。とはいえ、ある時点から姉妹に影がないとか、ネコバスで病院に着いた頃には2人は死んでいるとか、なんとかいうインターネット上の言説は見る限り、証拠になるレベルでは全く描写されていない。それらを根拠にした死亡説は正直なところ荒唐無稽なものだと言わざるを得ないが、そうハラハラさせるように作られているのは間違いない。
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