たかだんごむし

影武者のたかだんごむしのレビュー・感想・評価

影武者(1980年製作の映画)
4.4
長回しFIXの1カット目が、この映画を支えるあらゆる役目を担う土台となっている。「影」がテーマのこの作品は、色んな意味の「カゲ」を使った演出が盛り込まれていて味わい深い。1カット目のどこか異様な光は、信玄がその場を去っていく時にその意味に気づく。信玄の後ろの壁に写る身体より大きな影が、信玄の背に宿る巨大な力を表している。それに圧倒された影武者が、少し向き合って言葉を交わしただけで心から平伏してしまう。ここに凄まじい演出力が込められた事で、後は全てのシナリオが勝手に情感を持つ。信玄以外の武将には、対比的に陰影を付けていない。実体を失った影は影と言えるのか。似すぎた影法師が信玄の影をどんどん宿し、周りに影響を与えていく様を見ると、もはやそれは実体と同じなのではないかと考えさせられる。そして、仲代演じる影法師のチャーミングさがとても際立っている。こんなにゴツいのに可愛いおじさんは他にいない。影の存在でありながら竹丸に本当の祖父のような愛着を抱き、戦で倒れていく兵士達を本気で可哀想に思う彼が追い出される様は、非常に悲しさを帯びている。ラストに至ってはメイクでも表現されているが、もはや信玄の死体が蘇って武田家の最後を見届けているように思える。一生どう頑張っても今後作れないような規模の演出は勿論だが、まず人間独りの気持ちをストーリーの中に貫いている超大作。