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沈黙の世界のTSのレビュー・感想・評価

沈黙の世界(1956年製作の映画)
2.9
【ややご都合主義的な点がある】67点
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監督:ジャック=イヴ・クストー/ルイ・マル
製作国:フランス
ジャンル:ドキュメンタリー
収録時間:85分
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パッケージが美しい今作。世界的に有名な海洋学者であるジャック=イヴ・クストーとルイ・マルの合作ドキュメンタリー。ルイ・マルは『死刑台のエレベーター』などで有名です。
アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門を受賞しています。60年前にこのような海洋ドキュメンタリーを撮影していたことには仰天させられます。昨今の自然系ドキュメンタリーの映像美に比べると無論見劣りはしますが、このあたりから海洋系のドキュメンタリー映画は増えてきたのかもしれません。

と褒められるのはこのあたりくらいでして、本作の中盤で登場するクジラの扱い方に疑問を感じたためスコアはこのあたり止まりです。やはり、現代の僕達から見ると、違和感を感じる展開であります。それは、クジラを絶命させたのは紛れもなく人間なのに、その後にクジラの死体に群がるサメを報復の相手とみなしている点です。ん?船のスクリューでクジラは致命傷を負いましたよね?そして可哀想だから銃で脳天をぶち抜いて早く殺しましたよね?ところが、この後に死体に群がるサメを見て当事者たちはクジラの報復とか言い出すのです。明らかに論点がずれています。俄かに啓蒙主義的な感覚を抱いたのは僕だけでしょうか。サメは生きるためにクジラを食しただけであります。かたや人間たちは興味本位でクジラに近づき、致命傷を負わせているのです。どちらが罪深き存在かは容易に想像出来ます。そのあたり、60年前ということもあるので考え方が今とは若干違うと言ってしまえばそれまでですが、かなりご都合主義的と思いました。

そこを除くと、海底の魚たちに神秘を感じますし、難破船にも魅力を感じれます。自然や環境を扱ったドキュメンタリーというのは、甚だ人間中心的に物事を見ることを払拭しようとするために、教訓染みた内容になることが多いです。その賛否はともかくとして、今作においてはまだそのような風潮が弱かった時代に作られたこともあり、極めて人間中心的なものであると感じれました。こういうドキュメンタリーは嫌いではないですが、主旨を間違えるととんでもない内容になってしまいがちですから、やや留意が必要です。
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