朝田

過去を逃れての朝田のレビュー・感想・評価

過去を逃れて(1947年製作の映画)
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前半部分の約半分が回想パート、後半は思惑がぶつかり合う三つ巴へと突入する構成。見始めた時は戸惑いを隠せないような割と入り組んだ話。今だったら2時間はかけて作品に仕上げそうな脚本だがそこを無駄の無いカット割りで100分以内に纏め上げる潔さは流石のジャック・ターナー。グリアムのファム・ファタールっぷりと美しさは今で見てきたノワールの中でもかなりのレベル。たった数カットで関係性が変化するのも納得してしまう存在感。彼女とミッチャムのキスシーンは常に不気味な雰囲気を漂わせる。海でのキスシーンの不穏な気配は背後でサスペンスを予感させるように網が風に吹かれているのも相まって記憶に焼き付く。逃亡した先の小屋の中でキスをするシーンはミッチャムが投げた帽子が乗っかると照明が倒れ、そのままドアが開いて風が吹き込むシーンなど声を上げて驚いた。何も起きていないのに不吉さしかない。ファムファタールと関係を結ぶ事は即ち悪魔と契約を結ぶ事でもあるとでも言いたげだ。またこの作品は徹頭徹尾「仕草で語る」映画だった。危機的な状況が迫り来る時でも分かりやすく感情が蠢いている記号としての演技やセリフではなく、視線のやり取り、そしてタバコに火を付けるというアクションによって人物の緊張感を現す。バーのシーンでも、コップから水をこぼすというアクションが主人公の焦燥感を物語る。ラストカットも喋る事が出来ない少年が主人公に対する思いを看板に向けて仕草によって語りかける。演出が隅々にまで施されているようで、役者の身体性に強く信頼を寄せた造りでもあると思う。この時代のアメリカ映画らしい粋な演出だ。めちゃくちゃ破壊的なカークラッシュもあまりに面白い。洗練されたストーリーテリングと映像表現にひたすら魅力される傑作中の傑作。
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