甲類焼酎街道

少年時代の甲類焼酎街道のレビュー・感想・評価

少年時代(1990年製作の映画)
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タイトルがややこしいが、元になったのは二つの作品がある。柏原兵三の小説「長い道」と藤子不二雄Aがそれを原作として描いた漫画「少年時代」だ。藤子Aいわく映画は「二つをミックスさせたようなもの」だというが、漫画を読んだ感じではおそらく小説の色が濃いように思う。

原作のタイトルでもありたびたび登場する印象的な「長い道」は富山県入善にある2キロの道で、原作者の柏原兵三が実際に当時の上原小学校まで通っていたのと同じ道。撮影の際は、舗装を剥がし雑草を植えて45年前を再現し使われた。

藤子Aの漫画「少年時代」で描かれている道は朝日町の方で、こちらは藤子が実際に通った道なので、柏原の道とは異なる場所になる。

子役は5000人以上のオーディションから選ばれ、撮影期間は一年間に及んだ。進二役の藤田くんは東京出身で、映画後も俳優活動を続けた。地元の子供達の配役は富山出身者が多いものの、健介役だけは東京出身。

武役の堀岡くんは俳優業には興味がなかったようで、その後の映画出演はないが、高校生の時に南アルプスの天然水CMに出ているというネットの逸話がある。真偽は不明だがYouTubeで見るとたしかに成長後の姿に見える。逞しい青年になっていて数カットでも光るものがあり、俳優を続けていたらとも思うが、出演が一度きりというのもこの映画に相応しいような気がする。

井上陽水の少年時代が流れてからのラストシーンは今まで観た映画の中でも最も素晴らしいものだった。ちなみに藤子Aが陽水へ主題歌を依頼したが、その際に渡した歌詞は一節も採用されなかった。その理由を訊かれた陽水は「安孫子さんの心をもらった」とはぐらかしている。結果、あの大胆な省略法による革新的な歌詞が書かれた。映画公開時にはセールスがあまり伸びず、のちにCMソングになってから陽水最大のヒット曲となった。

話の筋としては、武の敗北=大日本帝国の敗戦を重ねた構造になっている。いわゆるガキ大将をトップとする普遍的な児童社会が国家と国民の関係に通じるという着想によって、当時の人々がどのように国を愛し、憎み、そして、別れていったか、世代を経てもその感情がよく伝わってくる。