天馬トビオ

黒部の太陽の天馬トビオのレビュー・感想・評価

黒部の太陽(1968年製作の映画)
5.0
ついに念願のノーカット完全版を、それも映画館の大スクリーンで観ることができた。この時点で、ぼくの生涯ベストは『七人の侍』と本作のツートップで決まりである。

出演者、演出、すべてが最高の布陣であり、最高のできばえである。製作に当たった裕次郎の苦悩と努力は、熊井監督の著書や裕次郎夫人の思い出に明らかだ。しかし、五社協定の厚い壁に行くてをさえぎられたことが幸いしたのか、民芸をはじめとする新劇界の役者さんが適材適所、最高の演技合戦を繰り広げる。「重厚」――という言葉が似合う役者さんがめっきり少なくなった現代にあって、彼らの存在はうらやましい限りだ。

同様に、現代では死語に近い「可憐」――という言葉が似合う女優さんたちの演技が、男ばかりのドラマに花を添える。お涙頂戴の蛇足かと思われた難病のエピソードも、じっくり見れば温泉での命がけの問答シーンの伏線になっていることがわかった。

そして何よりも、裕次郎と三船の二大スター、ともすれば自分の演技に固執しがちな二人の持ち味を120パーセント引き出した熊井監督の手腕。CGなど思いもよらない時代に、撮影困難と誰もが思った現地でのロケーションを敢行した職人魂。あわや大事故にもなりかねなかった伝説の出水シーンのスタジオ撮影……映画製作にかける情熱には頭が下がる。

日本映画の誇りであり、死ぬまでに何度でも大スクリーンで観たい傑作映画である。
天馬トビオ

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