ナガサワ

イングロリアス・バスターズのナガサワのレビュー・感想・評価

5.0

ホロコースト時代にユダヤ人を虐殺するナチスを描いた映画は数あれど、ナチスを虐殺するユダヤ人を描いたのはこの映画が唯一かと思われる。
「戦場のピアニスト」ではユダヤ人の解放運動としてナチスを殺すことはあった。
しかし本作は紛れもない虐殺だ。

その最たるシーンが、300人のナチスを閉じ込めた映画館が燃え盛る中、二階席にいるユダヤ系アメリカ人のバスターズが逃げ惑うナチスを撃ちまくる。
「シンドラーのリスト」でベランダからユダヤ人を撃ちまくったナチス士官アーモンを想起させる。
放っておけばどうせ焼け死ぬのだから、これは意味のない殺戮だ。

「シンドラーのリスト」ではあんなに不快感と恐怖を覚えたシーンのはずなのに、本作では快感のカタルシスを感じる。
シチュエーションだけで考えれば本作の方が残虐度は高い。
でも相手が残虐非道のナチスという大義名分があるため、この虐殺シーンは快楽映像になる。

ここにとてつもないブラックユーモアを感じる。
「“シンドラーのリスト”を見てナチスが許せなくなったあなたも、この虐殺は見てて楽しいでしょ?」
「あれ、でもナチスの”虐殺行為”が許せないんじゃなかったっけ?」
この映画を称賛するすべての観客を皮肉るような意図が感じられる。

ここからは僕の想像だけど、「そろそろホロコースト時代を過去のものにしませんか?」というメッセージがあるような気がする。
ホロコーストは歴史として絶対に忘れてはならない出来事だ。
でもいつまでも恨みを持ち続ける必要はない。
必要なのは恨みではなく、歴史として真摯に見つめることだ。
むしろ、恨みを持ったままでは、いつまで経っても虐殺された人数がはっきりしなかったりと、歴史にすることができない。
これが正しいことかは分からないけど、このクライマックスはメッセージとして斬新で面白い。

映像的にも震えるほどの凄さがある。
スクリーンが燃えて、そこで上映中止かと思いきや煙に映像が映るアイデアは驚かされた。
煙に映るショシャナの顔は、まるでファンタジー的な恐怖だが、煙と映写機だけで演出しているのがすごい。

映画好きのタランティーノが映画でナチスを震え上がらせ、フィルムでナチスを焼き殺す。
こんな映画見せられたらタランティーノのファンになるしかない。
一生ついていきます。

毎度のことだけど、タランティーノ映画は役者の演技もすごいなー。