ポップと水玉

アリゾナ・ドリームのポップと水玉のレビュー・感想・評価

アリゾナ・ドリーム(1992年製作の映画)
3.7
アメリカンドリームのとうに消え失せた世界で、ありもしない夢を追いかけ、ありもしない成功で自分を糊塗していた叔父が、もはや自分を騙しきれなくなって自殺してしまうシーンは実に痛々しい。その上恋人まで失った主人公が失意の中で生きていくしかないと悟る人生は、毎日地面を慣らして密入国者の足跡を調べていた父親のものと似てくるだろう。キャデラックを売り歩いていた叔父は最後まで子供だったが、無為とも思える国境警備の仕事をしていた父親は大人だった。主人公もまた大人になる。夢も希望もない毎日?しかしホームビデオで見る父親の仕事ぶりは不思議なユーモアに満ちていて、絶望の湿り気はどこにもない。乾いた日々の中で人生を充実させることはできるはずだ。ただしそこでは、アメリカンドリームとはまったく別の戦略が必要となるだろう。
悪夢が子供から大人になる時期に見る夢のことだとするなら、主人公のアリゾナでの日々は悪夢かもしれない。彼の眼は片方に寄ってしまったのだろうか。何かを失うかわりに何かを得るのさ、という最後のセリフが希望になればいい。