チッコーネ

結婚狂奏曲セクステットのチッコーネのレビュー・感想・評価

結婚狂奏曲セクステット(1978年製作の映画)
3.5
メイ・ウエストの遺作。
彼女は美しくもスリムでもない女傑タイプで、自ら脚本を手掛けた、きわどくもウィットに富んだ艶笑ものの芝居がまずブロードウェイで人気を獲得。
その勢いでハリウッドにも進出した。

豊満な肢体を豪奢な衣装に包み、あけすけな台詞を連発するその姿は、いま観ても充分刺激的であろうと思われる...、
なんて曖昧な物言いはイヤなのだが、全盛期の彼女の映画は、抜粋ぐらいでしか観ることができない。
ビデオ~DVDを通じて、ここ日本ではほとんどソフト化されたことがないのだ。

まず彼女の、セックスをほのめかす扇情的な芝居がプロダクション・コードにひっかかり、1940年代以降はハリウッドを追い出されてしまったこと、
そして下ネタをオブラートに包んだ台詞回しの数々が、翻訳者泣かせであることが、ソフト化されにくい原因のようである。
しかし映画自体は日本でも公開されていたはず。
黒柳徹子が特番の撮影に、突然メイの扮装で登場してきたりすることもあったので、届くところにはきちんと届いていた、という印象だ。
近年の日本にはこうしたウィットを理解できる層も確実に存在するのだから、多少意訳を駆使してでも、ソフト化を実現して欲しいものである。

さて本作は、なんと御齢84歳のメイを主役に配したカルト映画。
しかも役柄は、「アメリカ1セクシーな女優」という、どう見ても無理がある設定なので、冒頭で早くも食傷気味になったのだが、なかなかどうして飽きさせない。
脚本は彼女が全盛期に書き下ろしたもので、そのブラックユーモアの切れ味が、いまだ錆びついていないからだ。
また彼女の存在自体がすでにカリカチュア化されていることを踏まえ、観客が求めていない場面(濡れ場やラブシーンなどのウエット系)を徹底的に排除しているのも、潔い。
豪華絢爛なファッション・ショー(ハリウッド黄金期に活躍した、イーディス・ヘッドデザインのドレスを着用しまくる)や、ピチピチマッチョな若者と互角に渡り合うトークの場面で、そのビッチぶりが健在なところを、効果的に印象付けてもいる。

またメイの恋人役である、3代目007のティモシー・ダルトンが、イギリス人らしく品のあるコメディアンぶりを発揮し、往年の二枚目スター、トニー・カーティスも脇を固める。
おデブなマネージャー役のドム・デ・ルイーズは、意外に芸達者で飽きさせない。
他にも著名なロックスターが、メイの存在に敬意を表す形で華を添えており、なかなか楽しい作品に仕上がっていた。

それにしても84歳で撮影に臨むとは、すごい芸人根性。
台詞を憶えられないので、現場は大変だったようだ。
動きもなんとなく鈍いなぁ、と思って観ていたのだが、ドレスの下で杖をつきながら歩いていたというのだから、恐れ入る。
「冥土の土産」として、これ以上はない作品であろう。

(鑑賞当時のブログより転載)