おかだ

教授と美女のおかだのネタバレレビュー・内容・結末

教授と美女(1941年製作の映画)
4.9

このレビューはネタバレを含みます

巨匠大集合の古典映画アベンジャーズ


古典映画特集に入ろうと思いまして。
出だしが肝心ということで、ずっと観たかったけど、1941年公開というあまりにも古も古な作品過ぎるためなかなか手に入らなかったとっておきの今作をチョイス。
横浜駅のはまりんロードのTSUTAYA。鬼のように充実したラインナップです。


監督がハワードホークス、脚本をビリーワイルダー、そして撮影が「市民ケーン」のグレッグトーランドと、各分野の巨人が集結した最強の布陣で放つ今作は、言うなればモノクロ映画界のアベンジャーズ。

極め付けはこの映画、かの辛口映画レビューサイト「ロッテントマト」における批評家レビューの平均鮮度が驚異の100%。ビショビショです。
まあさすがにレビュアー分母も少ないけれど。

しかしここまで来ればもうどうしても面白いに決まってる。
てなわけで日曜日の夜という最もナイーブな時間帯に鑑賞しました。


さっそく感想、とにかく面白いスクリューボールコメディの最高峰。

あらすじは、百科事典の編纂を行うべく8人の教授が共同作業をしている館に、とあるきっかけで1人の美女が入り込んだもんだから大変。
しかもその美女は実は、検察から逃れるために転がり込んできたギャングの愛人で。

という感じで、実は今作は白雪姫のリメイクになっている。
7人の小人に代わる教授陣はいずれもキュートなおじいちゃん。そして1人だけ明らかに王子様枠な長身イケメン教授のゲイリークーパー。

そこに転がり込むのは今作のプリテンダー、プリンセスとしてのバーバラ。
扉を開けるなりウインク一閃、女耐性のない教授達をたちまちに一掃してみせる。

そこからバーバラの周りにワラワラと8人の教授が集まり、彼女の一挙手一投足にワイワイとリアクションしているさまの、ディズニーアニメーションチックな楽しさ。

あれよあれよと話があらぬ方向に展開していくスクリューボールコメディの醍醐味もさながら、おじいちゃん達がウキウキで挙式に向かうドライブの可愛らしさ。

またゲイリークーパーが意図せぬ形でバーバラに愛の告白をするシーンのロマンチックさ。
あそこの、暗闇の中にバーバラの瞳だけが映る映像演出も素敵で、あれをやるために目の周り以外を黒く塗って撮影したという工夫がちょっと笑えたり。
完全に余談なんやけど、あそこって部屋番号のプレートが緩んで、6が9に反転する(逆やったか?)ことで部屋を間違えてしまうっていう流れやったけど、mamamooの「gogobebe」のMVでも同じことしてたけどオマージュなん?そんなことはないの?
1940年代の映画評でよりによってmamamooを持ち出すというこの暴挙。

そして終盤のギャング急襲に対して、知識と機転で立ち向かうシークエンスのサスペンス演出も非常に上質。その反動から、25セントを握りしめてギュッと目をつぶってる教授の描写が余計に笑える。
クライマックスの殴り込みからシュールな決闘もとにかく面白くて。
とりわけ機関銃を撃ちながら顔面がブルブルなってる教授が最高に面白い。


それから何と言ってもラストのキスシーンが良い。
指輪という物質を介してバーバラの心境を描写していた手法もさながら、学者たちの本分である叡智の結晶たる本を踏み台にしてのキスシーン。
見たまんま可愛らしくて良いシーンであるんやけれども、他のレビューで見て驚いたのが、こういった学問や恋心といった極めて形而上的な主題を即物化し、小道具として消費してしまうハワードホークスの作家性が象徴されたシーンであるという指摘。
映画を観るというのは本当に難しいなと気付かされるような一幕でした。

それから余談で、このラストの踏み台を使ってのキスシーンでは思わず大好きな漫画「天使な小生意気」を連想した。
あれもめちゃくちゃ良かったな、最終話。


てなわけで総括すると、とにかく隙のない脚本と演出の数々で、全体的に楽しくて軽めなコメディーパートが基盤となりつつも、そのような演出や小ネタの一事が万事キャラクターや展開と結びつく、一切の無駄がなくそして滅法面白いというそんな大傑作でございました。

白黒映画をはじめとした古典映画に抵抗がある人こそ是非、入門編としてまず観てもらいたい、誰が観ても絶対に楽しめると保証できる珍しい映画であると思いました。
おかだ

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