ピートロ

雨にぬれた舗道のピートロのレビュー・感想・評価

雨にぬれた舗道(1969年製作の映画)
3.8
DVDはおろかVHSでも発売していないアルトマン初期のサイコスリラー。
中盤まで画変わりと展開に乏しいが、後半動き出してからは面白かった。
主人公の世間知らずさ、無自覚、混乱、葛藤を淡々と描くところがよかった。

他のユーザーの感想・評価

「くさるナァ」というセリフでおなじみの映画「M★A★S★H」の監督、ロバートアルトマン初期作品。

ガラス越しや鏡越しに映る人物、時折見せるカメラボケ、意図して不安定な映像造りをしているようだ。目隠し鬼のシーンで人物を映さず、影にフォーカスを当てていたのも面白い。MASHのアメフトシーンもそうだったが、挑戦的、実験的なショットが多用されているよう。
歪んだ愛情の末に行き着いたエンドロールシーンも変態的で好みだ。

おしゃべりなフランシスと全く言葉を発さない青年の対照さ。親身に世話をしようとしているフランシスの意に反して、姿を眩ましたり、また急にフラっと戻ってきたりする青年。フランシスは野良猫を拾った飼い主のようだ。実際、フランシスの青年への接し方はペットへの接し方のようだと感じた。

フランシスのコミュニティは自身とは年の離れた年齢層の人々が多く、退屈そうでいつも無表情。その世代以外との交流はない様子で、友人の医師を「年寄り臭い」と愚痴ることからも、対人関係がどこか窮屈で、孤独を感じていたように見える。
青年へ対して胸の内側から言葉が弾け出ているような話し方をしたり、産婦人科で避妊治療を受けたり、売春婦を雇って青年と性交させるのも、その後殺害することも、不可解だ。
実際、パーソナリティー障害を抱えているようだ。アルトマン監督は今作で女性とパーソナリティー障害の関係、強迫観念や性的欲求不満に対して探求をしたそうだ。

青年も青年で言葉を発さなかったのはコミュニケーションを取ることへの恐れのようにも感じた。
青年の姉や姉の恋人と会話をするシーンがあったが、会話することでぶつかっているように見えた。それでいて、フランシスや青年の姉の言葉に従いっぱなしなところも不可解。
青年の姉も姉で、実の弟へ性的な誘惑をするあたりクレイジーではある。

映像演出、登場人物の精神およびコミュニケーション。作品を通して見える”不安定さ”
その不安定さが、今作の象徴しているものであると感じた。

比較対象としてアケルマン監督の「ジャンヌ・ディエルマン、ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地」の名が挙がっているのを見受けるので、そちらもぜひ観賞したい。

このレビューはネタバレを含みます

先日の『イメージズ』と同じくアップリンク吉祥寺にて鑑賞。

裕福ながら孤独な女が雨の日に青年を”拾う”ことから始まる奇妙な同居生活を描いたトリッキーな家侵入型サスペンス。
家侵入型と言いつつ女の方から男を招き入れておりその辺からしてかなり変な関係。

観客にとって途中まではこの一言も喋らない青年が恐怖というか興味の対象だが、青年の正体が分かってからは主人公の女性の異常さが浮き彫りになってくるという逆転する関係性が面白い。
青年の方は大した秘密も目的もないというスカし方も変で良い。

主人公の欲求不満が映画から滲み出てきていて性的にオープンな会話ややり取りが印象的。主人公だけでなく病院の待合室のマダム達だったり青年の姉だったり売春婦だったり、皆悶々としてる。

『パラサイト 半地下の家族』でやたら取り上げられていた、窓枠やなんかで漫画のコマのように登場人物を区切るような構図が多様されていた。あっちも家侵入ものだしこの映画に影響受けてたりするんだろうか。

エンドロールの入り方がとても気持ち悪くて素晴らしかった。
toruman

torumanの感想・評価

4.0
ロバート・アルトマン監督「女性映画3部作」の1作目です。

30代の独身女性フランセスは、公園のベンチでずぶ濡れの青年を見つける。
その青年を自宅に連れ帰り、風呂に入れて食事を与えるが、青年は何もしゃべらない。
だんだんと青年に惹かれていくフランセスは…

フランセスは30代にしては裕福な生活。
日々、お付き合いしている方々は、彼女の親のような年齢層。
生活の中に若い人は全く入り込んでいない模様。
無為に時を過ごしてる彼女はいつも無表情。

しかし、公園から"拾ってきた"青年が、彼女の生活に波紋を起こします。
二転三転する2人の関係性。
少しづつ日常に染み込んでいく狂気。
先の見えない展開から、茫然自失する結末。

私は前回観た『イメージズ』よりこちらの方が怖かったです。

鏡越しにしゃべる登場人物
ガラスブロック越しから見る歪んだフランセスの顔
『イメージズ』にも繋がっていく神経症のような映像イメージが、この1作目で既に花開いています。

永遠に終わりが来ないような悪夢感も『イメージズ』と同じ感覚を呼び覚まします。

フランシス役に『バージニア・ウルフなんかこわくない』('66)でオスカーを受賞したサンディ・デニス。
精神的に不安定で繊細なお嬢さまのような役を見事に演じています。

今まで知る事の無かったアルトマン監督の一面を存分に味わえました。
どっちもどっちだなとは思うけど、どちらも気の毒。

時間感覚の唐突さがディエルマンっぽかったけど、本作の方が6年前に制作公開されているし、追い詰められていく経緯や心理も違う。

女性とパーソナリティ障害の関係を探求したスリラー、幻想映画的三部作の一編(『イメージズ』『三人の女』)
kaorui

kaoruiの感想・評価

3.5
あれ?という出来事が少しずつ少しずつ積み重なっていく。窓から外を眺めるとベンチに一人の若者が濡れたまま座っている。老人たちとのつまらない会話、サンディデニスの孤独。途中、再び、そして三たび眺めると窓の外は豪雨で、それでもベンチにうずくまる青年。あれ?
聾唖なのか発達障害なのか、若者を部屋に招いてからも、不可解なカットが積み重なっていく。歪んだ厚いガラスにズームしピントが合わないまま切り替わったり、どうにもカメラも不穏なのだ。
産婦人科のシーンから遂にアルトマンは恐怖のギアを入れる。
窓に打ち付けられた不気味に曲がった釘のショットは観ている僕達の逃げ道をも塞いでしまうのだ。
アルトマン特集で鑑賞

 初期の頃の作品で大コケしてしまった作品。

 富裕層の女性フランセスは雨の日にアパートの向かいにある公園で、びしょ濡れになっている若い男性を見つけ、家に招き入れる。その男はまったく話さないがもてなしに満足する。
 男は何度もフランセスの家に訪れ幸せな時間が続くと思っていたが…。

 序盤は青年が話さないし家の中のシーンばかりで寝落ちしかけました…w
 中盤、青年の正体が分かってからはめちゃくちゃ面白くなります。
 『パラサイト』かよ!って言いたくなる場面もあります。
 ですが終盤は恐ろしい映画へと変貌します。

 性的欲求不満からかフランシスは避妊手術をして青年を誘惑しますが、まったくダメ。腹が立ったフランシスは青年を家に閉じ込める。そしてなぜが売春婦を連れてきて…。
 クライマックスはアケルマンの『ジャンヌ・デュエルマン』にも似てる。

 1960年代ごろからアメリカの男性のマッチョイズムが消えていき、また女性が社会参加していった時代、心理学ではこのままアメリカの男性は弱くなっていくことが懸念されていた。
 それが反映されているように感じた。そして男性は理想の母親像を求めていった。
 ラストシーンはそのようにしか見えない。

 後に女性と男性の堕落していく様子を『ギャンブラー』で描いたりしたアルトマンだからあり得ます。

 撮影は病院のシーンを長回ししたり、また音響もオーバーラッピング・ダイアローグに繋がる方法をしていましてアルトマン映画の基盤が着実にできている。
 このすぐあとに『M☆A☆S☆H』を撮るのだから、この失敗は屁でもないだろう。
shinichiro

shinichiroの感想・評価

4.0

このレビューはネタバレを含みます

◎ 幻の初期傑作作品になってしまったのもさもありなん。
 
 監禁系サイコスリラーは初めて見たかも! 穏やかに坂道を降りるフランシスのシーンから始まるが、この穏やかな感じがずっと続く!笑 フランシスが叫んだり、姉と弟が部屋で戯れるのがバレないのか心配になったりするところ以外ドキドキする場面がほとんどない笑 でもそれがアルトマンの狙いなのだと知って後で驚いている。
飼い慣らす方、飼い慣らされる方(途中で逆転しているが、、)どちらも性癖が突き抜けているので、共感できないが、客観的に心理描写が浮き彫りになる。
フラシスが優しく愛撫しながら少年がしまったと思ったような表情でエンドロールになるのは変態的で最高ですね!
mam

mamの感想・評価

3.5

このレビューはネタバレを含みます

ブルジョア女性の孤独からくる狂気を炙り出したアルトマンのサイコスリラー。

土砂降りのなか公園のベンチにいた青年を雨宿りに家に招き入れたフランソワ。風呂や食事を提供するも全く言葉を発しない青年に心を開いていったフランソワは、無口な彼に対しどんどんと饒舌になっていく。彼の存在が彼女の孤独を埋めるようになっていき、次第に彼に執着しはじめる。客間に鍵をかけたり、夜中に窓から逃げられないよう釘で打ち付けたり、自分の世界の中に完全に彼を閉じ込めようとする狂気を孕んだ彼女の思いはどんどんとエスカレートしていき...。遂には彼のために若い娼婦まであてがうが、嫉妬に狂った女は娼婦を刺殺してしまう(不憫)
そして怯える青年に優しく愛の口づけをするとういう狂気のラストに戦慄...。

不気味な目隠し遊びに、頭部と手足をもぎ取られた人形...あぁこわい。
青年の姉も自堕落でちょっと狂ってて最高。

(ロバート・アルトマン傑作選2023)

2023-264
みっ

みっの感想・評価

3.9
母性なのか性的な感情なのか最後までわからなかったのでラストにゾワリとした

絵がずっと美しいしずっと誰かが何かをやらかしそうでヒヤヒヤした。この作品現代版であったらかなり怖いかも
non

nonの感想・評価

5.0
ロバート・アルトマン傑作選にて。

孤独な女
満たされない
秘めた欲望と狂気

アケルマンの「ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地」と似た狂気を感じた。今作の方が先なのですね。

フランセス役のサンディ・デニスの繊細な声が印象的。

アルトマンはM*A*S*Hしか観ていなくてThe Long Goodbyeはclipしたままなのでこちらも観なきゃ。
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パッチワークのような自由闊達な構成は面白いが、ひとつひとつのシーンが冗長なのがちょっとつらかった。
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