百合

華麗なるギャツビーの百合のレビュー・感想・評価

華麗なるギャツビー(2013年製作の映画)
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夢のあとさき

不足なかったとは言えないけど過分はなくて素朴にすごい。原作のぐちゃぐちゃにいじられたプロットも結構混乱させることなくつたえられていた気がする。すごい。
あとはなんといっても映像美ね。衣装がプラダでジュエリーがティファニーですか。そりゃ美しくなるわ。5年ぶりの再会を果たした時のデイジーの衣装も原作の通りの藤色で、パーティへ着てきた毛皮も真珠の首飾りも「これこれ!!」と言う感じ。美しいことこのうえない。
やっぱり“華麗なる”ギャツビーだからね。登場シーンは凝らなければならないわけです。それも存分に表現できていてよかった。前半のピークはやっぱりあそこだよな…レオ様が花火を背に振り返ったあのショットよ…あのオケよ…
パーティシーンに使われていた音楽が最近のアップテンポな曲ばかりで盛り上がりが用意されていてよかった。じゅうぶんに観客のことを考えているなと。いくら“ジャズ・エイジ”といわれていても現代の我々は恥ずかしながらジャズがよくわかりませんから…
デビッキ様も最高に美しかった。語り手の自律性を表すところの彼女とのロマンスは捨象されていて、まぁ映画という特質仕方ないか…という気もしたが。その代わりにギャツビーとデイジーを見守る様子がうまく撮られていてそれはよかったね。
ギャツビーは“愚かなる夢追い人”な訳です。彼が見ているのはデイジーその人ではない。彼の人生が狂う直前の、いわば沈む前の太陽がひときわ強い輝きを発するようなそんな瞬間をデイジーにオーバーラップさせて見ているわけです。ギャツビーはデイジーをイメージで理解している。原作の方の評論で散々考えたことですが、これはフィッツジェラルドがいくら妻ゼルダを批判されても彼女を愛することを辞められなかったことのその深淵を表しているのではないでしょうか。人間に夢を見てしまった者の滑稽で情けない最期。フィッツジェラルドは分身たるギャツビーをこのような目に遭わさせることで己にもそのような冷徹な最期を想定していたのでしょう。
本作品も基本的にはそのようなフィッツジェラルドの姿勢を踏襲しているわけですが、監督の意思か?キャスティングの魔力か?映像というもの自体が持つ魔力か?どうも語り手であるニックとギャツビーの関わりがとても分かりやすく表現されていて、なんとも切ない感じを演出できていたのがよかったです。漱石が『こころ』に描いたように、三角関係の下部を成す男2人はその頂点であるところの“お嬢さん”をもってして彼女と結ぶ関係以上に強靭な繋がりを持つことになるわけです。本作は三角関係では決してありませんが、翻弄するところのデイジー、翻弄されるところのギャツビーとニックという関係はすこしあの構図に似ているとは言えないでしょうか。三角形から弾き出された形のデイジーはギャツビーとニックを結ぶ礎となります。ニックはギャツビーの不思議な魅力のために、学友であるトムの信頼に反してもギャツビーとデイジーを引き合わせてやります(同時にギャツビーに全身で与することもなかったわけですが)。
ギャツビーを“偉大なる”と手書きで評しているところから明らかなように、ニックはギャツビーにどうしようもなく惹かれている。それは彼の葬儀をたったひとりで執り行うあの一連の痛ましいシーンからもわかります。ギャツビーの遺体のそばにいるために階段で眠るニックの姿は愛と呼ぶことができるのではないでしょうか。ギャツビーを愛するところがあるとすれば、それは彼が夢を見続けて、それに殺されたという点でしょう。ニックもかつては東部に夢を見て田舎から出てきた若者だった(ここらへんに映画ではわかりやすく表現されています。笑顔を浮かべてウォール街に佇むトビー・マグワイヤのなんともいえぬ可愛らしさ。原作ではもう少しシニカルで斜に構えた青年という感じです)。しかし自分以上に早足に夢を掴もうとする隣人ギャツビーを得て、彼は人生における夢というものの魅力と危険を理解したわけです。傍観者としてそれらを学んだニックは、この学習の礼としてギャツビーを讃える。これほど哀切なシーンはないでしょう。もしも現実を把握したニックが、夢を失ったギャツビーとその喪失後をともに歩むことが出来たとしたら。「それが現実だ」と言ってやれたら。そう思わずにはいられません。
ニックは中部に帰った後アル中の鬱病患者として描かれているのですが、これはどうなの?という。まぁ語りの必然性を持たせなければいけなかったのはわかるのですが…個人的には原作の、厭世的にトムを見つめるシーンも好きだったので。しかし厭世的という面では非常によく表現できていた。あんな経験したらそら鬱にもなるわなと。
トビー・マグワイヤの演技がとてもよかったです。彼が恋人のふたりを写真に撮るシーンが好きでした。顔変わったよねトビー…もっと悪役顔だと思ってた…
原作と合わせておすすめします。
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