H4Y4T0

ザ・マスターのH4Y4T0のレビュー・感想・評価

ザ・マスター(2012年製作の映画)
4.0
舞台は第二次世界大戦後のアメリカ。明くる日も明くる日も酒に溺れ、行き場を失った元海兵隊員の男フレディ・クエル(ホアキン・フェニックス)が信仰宗教団体の長「マスター」ことランカスター・ドッド(故フィリップ・シーモア・ホフマン)と出会い、次第に打ち解けてゆく過程の中で”思想”に対する疑問や不安を抱くようになる…。
これまた難解なストーリーで、観ているこちら側の脳が先にオーバーヒートを起こしそうになる程の”狂気”を感じる作品。

マスターが指揮する「ザ・コーズ」は実在する宗教団体「サイエントロジー」をモチーフにしたと監督の言葉にあるが、フレディのように戦争の後遺症で精神状態に異常をきたし、暴力や性欲に駆られる人間に救済の手を差し伸べたとてそれはかえって逆効果なんじゃないかなと思ってしまった。
人の弱みに漬け込んでは醜態をさらけ出させ、羞恥心を逆手に取っては操ったり洗脳したり、或いは集団ヒステリーにまで発展するともう手の付けようがない。傍から見た感想だと人間の汚い部分が露呈しているようにしか感じられなかった。
本物のピンチに陥った時に自分を救えるのは自分自身なんだと、決めつけるのは勝手かもしれないが、いずれにしても二人の強い意志が対立ないし拮抗する描写は妙に生々しくてリアルだった。

キャスト達の力強い演技は然る事ながらストーリーや言葉ではなく、映像に込められたメッセージが非常に強い。腑に落ちない点があっても気にならず、むしろ釘付けになることの方が圧倒的に多かった。
繊細なタッチで描く美しい映像も地味にお気に入り。

ポール・トーマス・アンダーソン監督の作品を鑑賞するのは初めての事ではないけれど、これだけ複雑な内容であるにも関わらず伝えたい部分はしっかりと伝わってくるし、何よりも世界観が素晴らしい。
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