洋梨

風立ちぬの洋梨のレビュー・感想・評価

風立ちぬ(2013年製作の映画)
4.0
こんなの嘘っぱちである。綺麗事ばかりで人間の良い面しか描いていない。出て来るのは好人物ばかり。無理難題を押し付けられ苦渋を飲まされた筈の零戦の設計、断末魔の妻の苦しみと無念、史上最も多くの日本人が殺された戦争と敗戦、すべてのものを無くす過程にあったはずの辛酸と苦悩と絶望は夢の中でほのめかされるだけだ。
東日本大震災が宮崎駿に「生きねば」というテーマで本作を作らせたのは間違いない。絶望から再生し再び歩き始める原動力を観客に植え付けるために、宮崎は、写実的に絶望を見せつけることを避け、行間を読ませる演出を選んだ。それが宮崎の美意識だ。でも俺は嫌いだ。嫌いだけれど小憎らしいほどに上手過ぎる。やっぱり物語の中に持って行かれてしまった。
自らの利益のために男を利用することに執心し、男をデレつかせる手管だけは天下一品の女に、つい最近まで翻弄されてきた俺にとって、主人公夫婦の打算のない率直で誠実な感情の交歓が心に染みた。男女の仲はそんな美しいものだけで成り立っていないことが判っていても、脚本と映像の力で心が「破裂」してしまった。
しかしまあ、何で宮崎のアニメは毎度毎度食いものが旨そうなのだろう。あと、避暑地で出会った怪しいドイツ人。彼はやっぱりゾルゲなんですかね。
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