にじのすけ

キャビンのにじのすけのレビュー・感想・評価

キャビン(2011年製作の映画)
4.3
(ネタバレあり。本作を未見の方は作品に関する一切の情報を遮断した上で鑑賞して下さい。一つだけ言うと、本作はホラー映画でありながらホラー映画ではありません。ですから映画好きであってホラーがお好きでない方も、必見の作品です。)
私はホラー映画好きを自認していますが、そもそもは映画自体が持つ高い芸術性を尊重しており、そういう観点からするとホラー映画は幼少期を除けば私の中ではどちらかといえばストレス解消のツールくらいの位置づけでした。だからといって、ホラー映画を貶めるつもりは毛頭ありません。人間が根源に持つ「人知を超越したものに対する畏怖心」を「恐怖」という概念が秘める重要なファクターの一つとすれば、映像による「恐怖」の追求も重要な芸術ジャンルの一つになり得るからです。「なり得るから」と言いました。ですが、私はいわゆるホラー映画を観て、本当の意味で今までに恐怖したことはないのです。恐怖という概念は優れて人間の原初的な想像力に訴えかけるものである以上、それが視覚化された瞬間、当初の衝撃はすぐに摩耗し、おびただしい類型の粗製濫造を経て陳腐化し、すっかり骨抜きにされてしまう運命にあるからです。そこで本作なのですが。正直、本当に驚愕しました、色々な意味で。私は本作を、敬愛するラヴクラフトのいわゆる”クトゥルー神話”の系譜に連なる秀作と見ています。ただし、本作は真の意味でラヴクラフトが”クトゥルー神話”において意図したであろうことを21世紀的文脈に置き換えることに(実に見事に)成功した点で、ホラー映画には80年代以降から発展の可能性はない、という私見を粉々に打ち砕いてしまいました。ホラー映画はもしかすると、本作によって、息の根を止められたのかもしれない。そういう文脈から、私は今までそうは言っても愛してきたホラー映画の終焉に対して哀悼の意を表します。と共に、ホラー映画の新たな進化系(もはやホラーとは呼べないものになるでしょう)の誕生を本作を通じて祝福します(ですがこれが”行き止まり”かもしれません)。
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