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愛、アムールのH4Y4T0のレビュー・感想・評価

愛、アムール(2012年製作の映画)
4.0
久々のミヒャエル・ハネケ監督作品鑑賞。
本作はオーストリア、フランス、ドイツの共同合作。ヨーロッパ映画特有の小洒落た雰囲気と落ち着いたテイストが醸し出す”陰陽”の絶妙なバランスが光る名作。
自分が今までに観たハネケ作品は『ファニー・ゲーム』『隠された記憶』『白いリボン』この3本のみ。そのどれもが強烈なインパクトを脳裏に焼き付け、忘れ難い思い出として静かに眠っていた。
毎回蓋を開けてみてからじゃないとわからないが、それこそがハネケ作品の醍醐味であり、伝えたいことを逐一説明するのではなく、映像が雄弁に物語る凄みに「してやられる」。
ハネケ監督の作風の特徴として独創的かつ卓越した心理描写で人が持つ悍ましい「悪」を暴き、本質を見抜くことで根底を狂わせ、大抵ラストで観客に疑念を残し、呆気に取らせ幕を閉じる。
然し本作の場合は今までの概念を打ち崩すかの如く全く違った印象で、趣のあるストーリーと慟哭を感じずにはいられないラストシーンに思わず感涙。
鑑賞後「感心」することはあっても「感動」することは無かっただけに、良い意味で意表を突かれた。

今作で描かれた作品のテーマは『愛』
もとよりジャンルは恋愛映画な訳だが、単純に男女の恋模様を描いているのではなく”愛の形容”をハネケ自身の目線で捉え、独自の切り口で要約したもの。
そんな”Amour(アムール)=愛”をテーマに、病に倒れた妻と看病する夫の関係を辛辣に描いた愛の物語。

ハネケ作品にしては珍しく”冒頭で結末を映し出す”といった今までにないやり口(自分が鑑賞してきた中では)に早くも困惑。
開幕早々僅か15分足らずで手中に収められ、否応なしにストーリーに引き込まれる。
その後の展開を予想しようにも予期せぬ展開ばかりで悟ることすら許されない。
肝心の鳩が現れるシーンや年老いた夫婦の「老老介護」の様子を怒涛の勢いで描き、ラストで全てを悟すこととなる。

言わずもがな『愛』の形は人それぞれであり、儚さや美しさといったイメージに幻想を抱いてしまい“がち”。例えそれが我々の想像を超えたものだったとしても、根拠や自信が無くて上手く説明出来なかったとしても、本人達が把握してる範囲内での「真実」を愛と呼べるなら容易いものだ。
事実、本作では「共依存」を題材にした場面が幾つか見られる。

やはりハネケの作品はこう、心にズッシリ来るものがあるというか胸糞悪い展開に深い意味合いを求めるだけ野暮というか…。
結局人それぞれなんですよねー。
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