百合

スター・トレック イントゥ・ダークネスの百合のレビュー・感想・評価

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それでも、私たちは、ちがうのだと。

スタートレックシリーズはこれらjjエイブライムス版がはじめてなのですが。もとはといえばカンバーバッチ見たさに…
本国における今シリーズの立ち位置がわからんのですが、重めのルパン三世みたいな感じなのだろうか?それならばカーンの処遇にも納得がいく。殺すわけにはいかなかろう…でもなぁ〜〜〜〜〜〜個人的には滅びの美学というか、ちゃんとピリオドをつけてほしかったと思います。ただシリーズの性格上そういうことはできなかったのであろう。うーん。うーーーーん。
コピーもイマイチですよね。「人類の最大の敵は、愛だ」って、カーンだって部下たちへの愛を根底に行動しているだろうと。ただカーンも遺伝子操作された優性人類とはいえ、人類であることに変わりはないので、そんな彼も含めての人類の弱点はやはり“愛”なのでしょう。そう考えると合っているとも言える。何目線なのかわからないけれども。
前作は父の代から連綿と続く復讐と、父という存在の超克の物語だったわけですが、今回はその要素は薄め。いや、“代理父”ともいえる提督の死、その復讐と復讐心の克服としてのカーンとの連携、またカークの死、復讐するスポック、そしてなによりも、自身を利用し、家族である部下までもを奪った提督へのカーンによる復讐。“父性”よりも“復讐”という要素が強まった作品といえるでしょう。
カンバーバッチファンとしてはカーンの喪われた父性の物語も見たかったところですが、よく考えれば彼は遺伝子操作で生まれた人間。主人公カークにも、バルタン星人であるスポックにも平等に与えられている“父性”がカーンだけには欠如しているわけです。そこを考えるとこのカーンというキャラの切なさがより一層際立つかと…(近年アメリカで行われた悪役人気ランキングにはカーンが11位を獲得した模様で、その人気ぶりが伺えます)
父も母も欠如したカーンが唯一愛する存在は彼のクルー達なのです。その点ではカーンとカークはよく似ている。カークもまた産まれた日に父を亡くし、母は絶対に描かれない(話にも出てきません)。しかも今作では代理父である提督さえ殺されてしまい、結ばれているのは船員たちだけ(いうまでもなくスポックとの掛け合いは至極ですし、スコッティやボーンズ、スールーとのコンビも最高です)。またスポックは母親こそ喪っているものの、父は健在であり、カーンとカークが組むことになるのはおよそ必然といえるのです。何か大切なものを欠いた2人の運命の交錯は、提督の大きな野望を突き止め、それの阻止を成功させるのですが、カーンはやはり人類を信頼することなく、自身の鏡ともいえるカークと、そのクルー達の殺害を企てます。
人類を信頼するかしないか、運命の分かれ目はここだったのでしょうか。しかしなんだかんだ、カークは代理の父性や代理の家族に囲まれ続けていました。それを考えると、孤独の出発点は同じでもその後の歩みそのものが異なっていたのか…と思わされます。自身の最期を確信したとき、カークはスポックに「友達だった」と伝えガラス越しに手を触れるのですが、今作で最も哀切なシーンはここでしょう。スポックやボーンズやスコッティなどたくさんの“友達”に囲まれて生きてきたカークと、300年の眠りに就かされたカーンは、やはり混じり合うことができない存在だったのかもしれません。(だからこそ“カークに”カーンのピリオドを打ってほしかったと思うのですが…)
カーンとカークの単独飛行の際、カークを見るカーンの目が一番好きでした。少し微笑んで、カーンはカークを一瞥するのです。軌道を失ったカークを守り、導くように。この瞬間こそ、もとより限りなく相似形に近いふたりの人生がぴたりと重なった瞬間だったのではないでしょうか。この微笑みのあとだからこそ、「船の最期にはキャプテンがいなければ」との言葉と同時にエンタープライズ号にしかけられる容赦ないカーンの攻撃が、ある種のカタルシスの快感をもって迫ってくるのです。
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