起: 歴史や人事を題材とし、比喩や連想から詠み始めることにより、様々な展開が出来るとする。
承: 「穏健」に作るべきであるとし、突飛、露骨な句であったり、反対に平板であったりすることは避けるように主張している。
転: 読み手を驚かす変化を入れるよう求めている。ただし、「転」の句は、「承」のそれと表裏一体であり、別物であってはならず、互いに応じ、互いに避けるという一貫性がなければならないとする。
結: 「言に尽くる有りて意に窮まる無し」とし、適宜にフェードアウトすることにより、「含蓄」という詩作の目的の一つを達成できるとしている。
ローン・レンジャーの構成は、最古のものであると主張される、詩人、楊載(ようさい)の起承転結説を忠実になぞっている。
つまり、王道中の王道、定石の中の定石、ベタ中のベタ、テンプレの中のテンプレ。
底の知れた、有象無象の、手垢の付いた、目新しさのない、ワンパターンな構成と言える。
だが、裏を返せば、奇をてらわない、確立された、定番の構成とも言える。
本作はそこに、パイレーツ・オブ・カリビアンの監督ゴア・ヴァービンスキーのウィットがプラスされることで、定石破りの、底の知れない、唯一無二の、「王道」な作品になっていると思う。
まさに、楊載とゴア・ヴァービンスキーの、時代を超えたコラボレーションヌである。
レビューに散見される「退屈」という言葉。
それは、承における「穏健」転への助走、布石、象牙の義足である。
「ウィリアム・テル序曲」によって転じるラストシーンの底力に、心躍らない人はいるのだろうか。
そのラストシーンでは、楊載という名の定石はマスクで顔を隠し、ゴア・ヴァービンスキーという定石破りがマスクを脱ぐ。
王道、ウィット、王道、ウィット。
リピート、ロッシーニ、アレグロ・ヴィヴァーチェ。
滑稽、爽快、滑稽、爽快。
「ハイヨー、シルバー!」グッドトレード。
王道によって転じた邪道による浄化。
心臓をナイフで抉られる、えも言われぬカタルシス。
目を凝らせば浮かび上がる、ジョニー・デップとアーミー・ハマーの背後に映る、肩を組んだ楊載とゴア・ヴァービンスキー。
わらってら、わらってら。
かたをゆらして、わらってら。
つられて、こっちもわらってら。
なみだながして、わらってら。
「言に尽くる有りて意に窮まる無し」
結(けつ)を結(ゆ)わうは正義の在り方。
"正義は人それぞれだ"
弱者の正義と強者の正義。
"悪霊"もまた、人それぞれ。
悪霊に囚われた人間はおしなべて破滅する。
"あの二人"がそうであったように。
"バッドトレード"
"正義"を貫くには、戒めのマスクが必要不可欠。
スーパーマン、バットマン、アイアンマン、スパイダーマン。
シャア・アズナブル、フル・フロンタル、ラウ・ル・クルーゼ、ネオ・ロアノーク。
そして、ローン・レンジャー。
"徹底的な正義"のダンと、"どっちつかずの正義"のジョン。
ジョンが偉大な戦士、スピリットウォーカーに選ばれたのは、悪霊という名の欲望を、正義という名のマスクで鎮めることができる人物だったからだろう。
また、悪霊を退けたトントも、真の悪霊ハンターになれたはずだ。
インディアン嘘つかない。
そうだろ?キモサベ。
この映画を「長い」「退屈」と、批評家に流され、ラズベリってる世間の様は、この映画以上に喜劇で悲劇である。
白人嘘つく。
そうだろ?キモサベ。楊載。ゴア・ヴァービンスキー。
ないてーら、ないてーら。
かたふるわして、ないてーら。
らじられ、やじられ、ないてーら。
なみだながして、ないてーら。
正義が勝つとは限らない。悪も又、礎の一つ。
作品外からも送られる、身を挺したメッセージに、つられてこっちもないてーら。
私から、ゴア・ヴァービンスキー監督へ、ささやかながら「言に尽くる有りて意に窮まる無しで賞」を贈呈。
この映画の真のメッセージは、悪霊を払いつつ、トントのように、すっとんきょうに生きろ、ということなのかもしれない。
つまり、主人公はスピリットウォーカーのジョン・リードではなく、悪霊ハンターのトントであると。
皮肉にも、彼の作品外からのメッセージで、気付かされるのであった。
それはそれとして、
"あの馬、かなりヤバいな"
最低作品賞 『ローン・レンジャー』 ノミネート
最低男優賞 ジョニー・デップ ノミネート
最低前日譚・リメイク・盗作・続編賞 『ローン・レンジャー』 受賞
最低監督賞 ゴア・ヴァービンスキー ノミネート
最低脚本賞 ジャスティン・ヘイス、テッド・エリオット、テリー・ロッシオ ノミネート
言に尽くる有りて意に窮まる無しで賞 ゴア・ヴァービンスキー 受賞