ベティー

終戦のエンペラーのベティーのレビュー・感想・評価

終戦のエンペラー(2012年製作の映画)
3.5
はたして昭和天皇は太平洋戦争開戦を防ぎえたのか?
敗戦直後アメリカ占領下の日本で、GHQのマッカーサーと部下のフェラーズが天皇の処遇をどうするか悩むという話。
天皇制の存続有無という、日本人の国家観、意識の大きな転換点となる話を描いた近代日本史映画。
原題はエンペラー。なんかすごいファッキンジャップ制圧してやった風な差別的映画をイメージしていたのですが、全然ふつうの作りだった。
というのも、なんか制作が複雑。この映画、企画したのが日本人で、本作にも登場する昭和天皇側近?の関屋貞三郎のお孫さんらしい。原作原案も日本人。で制作国はアメリカと。どういう経緯なんでしょうね。よくわからん。日本で作ってもよさそうな気がしますが。アメリカではまったく振るわずだった、というのはまあわかる気もしますが。。日本ではそこそこよかったとか。

テーマは戦後の天皇の処遇について。当時の大日本帝国憲法では、天皇は国家元首なので、敗北すれば処刑されそうな気もしますが、そこはいろいろな政策上の思惑があり、なかなか面白く観れる。もう少し以降の冷戦的国際政治上の観点みたいなのがあったらよりおもしろかったんですがね。

もしも天皇を処罰し天皇制を廃止した場合の日本人がどうなっていたのか。これは本当に興味深い。政策的には象徴天皇制というのは憎たらしいがずる賢くも、うまい作戦をとったように思える。しかし冒頭の原爆投下シーンは非常に不愉快ですが、そっからは結構地味。
主人公のフェラーズさんが、天皇に責任がなかったことを裏付けるために当時の重要政治家を訪ねて回るという流れで、まあ戦後日本話が好きな人でないと退屈じゃないかな。私的には、わりと退屈。。しかも好きな人だととことん好きなケースが多いので、、物足りないというか、いろいろ思うところがあるのかもしれないし。いろいろと取扱い注意映画という感はあるな。。

あと、フェラーズさんには日本人の彼女がいて、というフィクションが混ざってますが、特に面白くないし、いらないかなと思ったがまあいいか。

歴史観的には、西田敏行さん演じる軍人とフェラーズさんとの会話シーンに尽きるのではないでしょうか。開戦理由として、最近の70年談話にもあった経済のブロック化、日本への石油の輸出禁止措置の話とか、さらには当時の植民地主義的思考を語るあたり、ああこれをアメリカ人にいいたい映画なのかな?と思えたりもするところ、なかなか新鮮でいいですね。しかしこれアメリカでヒットするはずもないだろ。。なんで制作したのかな?疑問。そもそも戦後日本史にアメリカがどのくらい興味あるのかもあやしい気がするけど。
昭和天皇とマッカーサーとの会談のシーンは独特の雰囲気があり、本当にこんなだったかは知る由もないが、なかなかよいシーン。

最近はなにかと政治的話題の多い日本なので、戦後の日本史の出発点を描いた本作はある意味旬です。日本は、マッカーサーさんがんばりすぎたせいか、とかく戦争について極端にそれを検証思考すること自体タブー化しすぎた感があり、そのせいでいざ議論が必要なときにろくな議論もできない状態に陥っていると、自分の無知を発見するたびに思うわけですが。そういった意味で、いろいろと調べるきっかけになるよい映画だった。
まあ映画的おもしろさでは微妙ですが、なんせ日本の半ドキュメンタリーなので、そういう視点で見れば、たくさんはいらないが価値のある一本では。
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