虫山

アノニマス 〜“ハッカー”たちの生態〜の虫山のレビュー・感想・評価

4.1
アノニマスをよく知らない人間は、彼らを天才ハッカー集団と思うだろう。でも実体は必ずしもそうではなく、彼らの大半はDDos攻撃(要するに田代砲)でサーバーをダウンさせたり、ネット上における「座り込み」をしたりすることによってターゲットをイラつかせたり困らせたりする嫌がらせを楽しむことから始まった匿名の人々による集団であり、つまるところ2chの暇人の集まりみたいなもんだったわけである。
ところが、サイエントロジーという悪名高いカルト宗教にアノニマスがハッキングをし、「なんて素晴らしいんだ!サイコーだよサイエントロジーは!」(超訳)と、狂った笑顔でサイエントロジーの素晴らしさについて語るトム・クルーズの動画を流出させたことは大きなニュースになり、サイエントロジーは弁護士を雇い、FBIがアノニマス達の家庭に押しかけ、ただDDosをしてサーバーダウンをさせただけの少年に対し、禁固1年保護観察1年の刑を下す。この「チャノロジー」と呼ばれるサイエントロジーの悪事を表に出させてやろうという計画の過程で、アノニマスはそれまでのイタズラ集団ではなく、一つの目的に基づいて行動する集団として確立される。この後にかのアサンジ様が出てくるなどなんやかんやあって、あとはご存知の通りです。

ネットからデモや政治的活動をを呼び掛けようとすれば日本においてはTwitterやFacebookなどのSNSを介す場合が多く、そうなると必然的に匿名性はある意味で薄れる。一方でアノニマスは4chから派生したということで、完全にV・フォー・ヴェンデッタに影響を受けたオタクたちがガイフォークスのマスクをかぶることによって、匿名性がリアルにおいても維持されてる印象を受ける。匿名性が体現されているからこそ、引きこもりのオタク達も外に出て参加するようになり、次第に規模は増え、影響力も余計ハンパではやくなくなる。技術力が無くても、モテなくても、みんなで一つの目的に向かって突き進むというハクティビズムはIT革命が生んだ新しい政治活動の形であり、サイエントロジーのようにそれについていけない人々は取り残される。今の時代っていうのはそういうものだ。
しかし日々進化するテクノロジーを良くも悪くも利用するのは生身の人間であり、法律ではなく彼等の倫理規範に基づいて行動は行われるから、時にはグレーゾーンに足を踏み入れることもある。だからアノニマスの活動を基本的には支持しながらも、彼等が表現の自由を唱え続ける限り、プライバシー保護の権利についても考えなければならないし、難しいことが多い。未来のことについては予測しか立てられないのだから、行動すべきその時がくるまで、私に出来るのはとにかく勉強し続けることだけだ、というのが私が映画を観て考えたことです。
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