竹内佑

アイアン・フィストの竹内佑のレビュー・感想・評価

アイアン・フィスト(2012年製作の映画)
5.0
黒人の鍛冶屋が、両腕を鉄製にして悪をぶっ叩く映画。

最高でした。

はっきり言って、この映画に満点をつけるのは、ウータンクラン好きだけだと思います。
ウータンのことを知らずに満点つける人がいるならば、その人は今すぐウータンを聴かなければならない。
人生の半分は損しているよ、というくらい、ウータンクランファンが身悶えする映画。

でも、それだけではただのPVと変わらないし、ウータンのメンバーが総出演している所謂アイドル映画なのかな? とお思いの皆さんもいるかも知れないのでハッキリ言っときますが、ウータンのメンバーは、一人しか出ていません。

でもその一人こそが、ウータンクランの総帥でありトラックメイカーでありラッパーであり、重度のカンフーマニアの、RZAその人なのであります。

監督脚本原案音楽主演を一人でやってのけます。
そうなるとほぼ自主制作映画みたいなもんですが、この映画、友達を大事にする男イーライ・ロスが製作を務めており、更にタランティーノがプレゼンツに名を貸しておりますので、ただの自主制作映画とは一線を画しておるのです。

オープニングで残酷極まりないカンフー殺戮シーンのバックにウータンクランの『shame on a nigga』がものすごいカッコいいトラックで鳴り響くだけで、個人的には100点を叩き出してました。
それだけでなく、それに重なるスタッフロールがもう最高なんだ。
古き良き香港映画のオマージュタップリで。
このオープニングだけ永遠に見ていられるくらい。
つまりRZAの趣味がいきなり炸裂しており、これはもう、自主制作映画と呼んでも差し支えない!
くらい、自分の撮りたいもの、が叶えられているのです。
感動。

では、そんな幸福な映画は満点の出来か、と言えば決してそんなことはなく、はっきり言って、ストーリーはごちゃごちゃしすぎていてよくわからない!

というか、やりたいことを詰め込みすぎていて、全然まとまってないから、途中で、今何の話してたっけ? と、素になる事もしばしば。

そもそも、撮影終了した時点で四時間ある話を、RZAは『キル・ビル』みたいに前後編で公開したかったのだけれど、プロデューサーのイーライ・ロスが、この作品がデビュー作の新人監督にはそれを許さず(当たり前)、無理くりなんとか九十五分に縮めさせたので、元々無理がある話でもあったのだ。

だから、この映画のラストバトルは、はっきり言って、訳がわからない。
繋ぎもうまくいってないし、唐突だし、ゴチャゴチャだ。

それでも、俺はこの映画が愛しくてたまらない。

全編に渡り、監督の、「俺はこの画が撮りたいんだ!」に満ち溢れているからだ。

だから、どのカットも画的にはものすごく強い。

監督のカンフー愛も随所に感じられる。

第二主人公の名前、ゼン・イーが、「善意」から取られてるところとか、本当可愛いとさえ思う。

ビジュアルイメージは100点なのに、脚本構成が10点みたいな、アーティストが初監督した時に陥りがちな罠に、天才ミュージシャンRZAもハマってるわけだけど、それを俺は全然否定できないのです。
むしろ、拍手喝采で迎え入れたい。

ようこそ、撮りたいものを撮ろうとする世界へ、みたいな。

今回は撮りたいものが多すぎてまとまらなかっただけで、イーライ・ロスやタランティーノがサポートしてくれているRZAなら、次はきっともっとシェイプアップされた次回作を撮ってくれるはず。

ラッセル・クロウとも、『アメリカン・ギャングスター』で共演した仲だし、次回作も出てくれるんじゃないかな?

とにかく、ほとんどの人にとっては退屈な作品と思いますが、俺にとっては、物凄く楽しくて仕方のない傑作でした!
て話。

RZAのセリフで
「タイガースタイル!」
てあるだけで失禁ものですよ。
ウータン好きだからこそ。

言うまでもなく、サントラは最高!

ウータンの曲がオープニングでかかる映画に外れなし! 『無ケーカクの命中男』とか。
竹内佑

竹内佑