まさおヨシオ

パトリオット・デイのまさおヨシオのレビュー・感想・評価

パトリオット・デイ(2016年製作の映画)
4.5
「ローン・サバイバー」以降の『実話×マーク・ウォールバーグ』シリーズ(?)三作目。
2013年に起きた「ボストンマラソン爆弾テロ事件」の全容、解決に至るまでの過程がテーマです。
今作も実在の人物たちの功績を描き讃える物語でした。


観終わって最初に感じたのは、「テロリストに対する憎悪を煽る映画ではない」ということです。
犯人に対する人々の憎しみは当然あり、それが事件解決への執念に繋がっていくのが前半、テロという困難・災厄に立ち向かう人々の勇気や絆、ボストンという街の強さを描くのが後半、といったイメージでした。


僕は感化されやすい人間で、「ユナイテッド93」を観た後はイスラム系テロリストに対してすごい憎悪を持ってしまったのに(批判はしません、あれもめちゃめちゃいい映画です)、この映画は全く違った後味で、それがこの映画のすごいところだと思いました。


以下は印象に残ったところ。
ネタバレあり。


アメリカの国柄・国民性

テロや犯罪者との戦いに対する意識が日本とは違うな~と思いました。
情報を求めるFBIに対して、回線がパンクするほど寄せられる市民からの情報、避難しろと言われても、何でもいいから協力したくて「これでぶん殴ってくれ!」と警官に渡されるハンマー、等々。
「敵」だと認識したものに対して、一丸となって挑む国民性はアメリカの強さだと思いました。


国・警察への信頼

外出禁止命、学校敷地内の侵入、学生寮へのドアブリーチング・突入、住宅地での銃撃戦・・・日本でやったら批判が殺到しそうなことを、当たり前にやる。
人の家の中だろうが、屋根の上だろうが、狙撃ポイントになりそうな場所はどこでも入っちゃう。
それが許されるのは市民の理解があるから。


銃があること、使うことへの当たり前感

終盤の警察と犯人の銃撃戦は、手製の爆弾やアサルトライフルなど互いに強力な武器を使用した、まさに戦場でした(味方への誤射など混乱もありましたが、それは軍隊でもやることなので、そこらへんも含めて)。
その「戦場の仕事」を、SWATでもなんでもない制服警官がこなしている。スゴいことですよね・・・。
いきなり迷彩服の男たち(HRTかな?)がズケズケ入ってきて、日本人なら「キャー!!」ってなる場面でも、落ち着いて避難誘導に従う女の子。これがアメリカなんでしょうね。
こういう描写が多かった気がします。


イスラム教徒の覚悟

ぶっちゃけ犯人たちは頭も弱そうでクソみたいに描かれていましたが、奥さんにはビビりました・・・。
夫がテロリストであること(彼らにとっては聖戦者なのでしょうか)を知っていて、でも逆らわない。死体の写真を見せられても涙も流さない。かといって愛してないわけでもない。私はイスラム教徒の妻だから、夫に従うのは運命。どうやったらそれを受け入れる強さが備わるのか。
社会への不満をぶちまけたくてテロリストになる「にわかジハード野郎」でもなく、砂漠の国でコーランしか読まずに育った「ガッチガチのイスラム原理主義者」でもない。
アメリカ在住、アメリカの文化に触れ、欧米人の価値観、概念、考え方、全て知っていて、それでも「私は違う。私はイスラムの女」と割りきれるのは、その「覚悟」はどこからくるのか。

それだけが、この映画を観終わった後も解せずにずっと残っています。

奇しくも日本で「いわゆる共謀罪」の議論が紛糾してる時期に観られたのも感慨深いものがありました。

日本とアメリカでは色々なことが違いすぎて同列には語れないと思います。

ただ、いずれ私たちがこの超人的な「覚悟」に怯えて暮らす時代が来るのかな、あるいはもう来ているのかな、などと考えてしまい、本当にゾッとさせられました。