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あなたを抱きしめる日までのhilockのレビュー・感想・評価

あなたを抱きしめる日まで(2013年製作の映画)
4.0
本年度アカデミー賞ノミニーの作品。スタイルはロードムービーの形態であるが、メッセージの強い作品である。カトリック教の糾弾にも見える本作であるが、カトリック教を信仰し、製作総指揮も兼ねたスティーブ・クーガン曰く、教会の糾弾ではないという。この弁明は宗教論争を未然に防ぐための防衛と見える。しかし、宗教の荘厳さや信仰心をも揺らぐ内容であることは間違いない。お布施の一環として、みだらな性行為で生まれた子どもを人身売買していたという所が、強烈なイメージとして残るが、本来のメッセージは、性行為をした女性への吊るし首にも似た尋問、奴隷奉公にも似た寄宿舎での労働など、カトリック教会の古い体質と隠蔽されてきた体制への批判であろう。この根底から宗教を批判する要素をマイルドにしているのは、主人公フィロミナ自身の人生観である。フリーセックスの肯定、ゲイへの認知、今も続ける揺るぎない信仰心など、彼女が人生の中で培った信念が生き生きと観客に見てとれるからである。その信念が一度だけ揺らぐときがある。息子をようやく見つけたが、進展がなく前に進まなくなり、協会に懺悔をしに行くシーンである。今まで教会にも足繁く通った彼女ではあったが、ただ彼女が貫き通したことは、教会へろうそくの炎を灯し続けたたことだけで、礼拝や懺悔はしてこなかったのである。それほど追い詰められた彼女が教会を赦すといった言葉の中に込められたものは、真実を打ち明けることのできない教会、月日が経とうとも忘れられない真実をうちに秘め生きてきたフィロミナそして、自分の職場でゲイとして打ち明けられない、アンソニーという三者三様の心の闇〜世間に公言できない後ろめたさ〜を互いに持ち合わせていたことを赦したいという心からの切望なのである。もう一つは、やはりジュディ・デンチの演技の深みにある。芯のある性格のため、とかく力強い役が多いのだが強い女性でありながら、暖かさを併せ持つ主人公を熱演している。黄斑変性症という目の病で今後映画に出られないことが報道されました。なんとも残念だと思っていましたが、インタビューで「『引退』という言葉は私の辞書においては最も無礼な言葉だと思います。年寄りとか熟練したとか、古くさいといった言葉も我が家では一切禁止しています。そういう言葉は、まるであなたはもう終わりみたいなことを意味するのですから」とか、「確かに、私の視力は相当衰えて、台本を読むこともできないし、ずっと描いていた絵も描けません。映画も見たいと思いますが、それもかなり大変なことなんです。でも、そういう否定的なことばかりを考えていたくはありません。できることをやるだけ。演じることに情熱がある限り、私はできることをやっていくつもりです。いまはこうやって、どうにかやっていますから」 と力強い言葉をききましたので安心しました。ここ数年の作品賞受賞作『英国王のスピーチ』、『アーティスト』を鑑み、さらに宗教批判を考慮すれば、本年度は受賞できないのは当然とも見える。(詳細は『それでも夜は明ける』評に譲る)共演は、メア・ウィニンガム、メアリー・ミッシェル。★★★★☆本作のカトリック教内部の批判は『 マグダレンの祈り』でも描かれているのでこっちもチェックなのである。
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