19世紀ロシアの文豪・ドストエフスキーの五大長編のうちの一つを映画化。ついこの間原作を読んで、非常に面白かったので、その記憶が消えないうちにと鑑賞。
余談ですが、ドストエフスキーの作品では『罪と罰』がいちばん好きです。サスペンス小説としても楽しめるしね。
で、映画版の内容。序盤、やたらテロップが挿入されて、話が端折られてんなと思ったら、やっぱりカットされていたみたいで…黒澤明の有名な言葉『フィルムを縦に切れ!』はこの作品であるとのこと。
日本の北海道が舞台ではあるが、恐らく意図的に日本的な要素が、なるたけ排除されており、食事のシーンもパンやワインだったりするし、雪まつりの場面の呪術的な雰囲気など、ロシアっぽさを感じさせる場面多し。
ムイシュキン公爵=亀田・森雅之、ロゴージン=赤間・三船敏郎は流石の存在感だが、何と言ってもナスターシャ=那須妙子・原節子の風貌と演技が凄まじい。
常に黒い服を身に纏い、男どもを惑わせ、ときにヒステリックな笑い声をあげる。彼女の初登場シーンである写真の場面の目力、その後の本人登場(直前の森の表情でタメを見せてるところも良い)は、彼女がただならぬ存在であるかの様に演出されており、さながら魔女が降臨してきた様で、結構怖かった…。原節子といえば"白"のイメージなので、なかなか衝撃的。
2時間40分もの長丁場ではあるが、原作を読んでいた事と、黒澤演出を意識しながら観ていたので、飽きることは無かった。
とはいえ、原作もそうなんですが、いわゆるシリアスな笑いというか、演技が過剰過ぎてコメディーみたいになってしまっている箇所がチラホラ…。
終盤はもはや亀田と赤間の同性愛映画みたいになっていて、何というか…ただ、原作からも感じられた、あの場面の異様さが上手く醸し出されていて良かった。
ラスト、原作には無い、久我美子演じる綾子=アグラーヤの最後の台詞が切なかった。