現れる小林

キューティー&ボクサーの現れる小林のレビュー・感想・評価

キューティー&ボクサー(2013年製作の映画)
3.8
アメリカで暮らす日本人の芸術家夫婦のドキュメンタリー。特に夫の方はボクシンググローブに塗料をつけてキャンバスを殴りまくる手法で絵を描く作風などで有名な、世界的アーティストらしい。

ただ今作を見ていて興味を惹かれるのはむしろ奥さんの方である。自身も芸術家でありながら、圧倒的な知名度を誇る世界的アーティストの妻でもあるという状況の中で抱いているであろう複雑な感情が伺えた。

しかしそのような夫婦の空気感を掘り下げて描いているというよりは、やはり夫の「牛ちゃん」こと篠原有司男のアーティスト活動をカッコよく撮ったPVの域を出ていない感じがしたので、特に彼のファンでもなく、ドキュメンタリーとしての盛り上がりを期待して見ている私からすると物足りなかった。

何よりも夫の方の篠原有司男の言動の端々から現れる傲慢さや妻を見下した態度(ただ同時に妻への愛情はちゃんと持っていて完全には憎めないのが憎らしい)などが鼻につき、終盤で途中で酒に酔って暴れ出したところで残念ながら完全に冷めてしまった。
まあただこれは恐らく私が個人的にこの人の性格が苦手だった上に酒乱になって傍若無人に振る舞う人間を見るのが大嫌いだというこちら側の都合もかなりある。おそらく特に気分を害することなく、孤高のカリスマの記録映像として楽しめる人もそれなりにいるだろうと思う。

まあそのような文句はありつつも、自他ともに天才と称されている芸術家の苦悩や、純日本人であるにもかかわらず長いアメリカ暮らしの中で夫婦間の会話の中にまで英語が日常的なレベルで侵食してきている様子など、なかなか見られない光景のオンパレードであることは間違いないので見て退屈はしないと思う。