うめ

アデル、ブルーは熱い色のうめのレビュー・感想・評価

アデル、ブルーは熱い色(2013年製作の映画)
4.0
 一人の少女が女性になる瞬間を、軽やかに、そして繊細に描いた作品。(そして、フランスだからこそ撮れる作品。)ストーリーは恋愛映画の定番で、運命的に出会い、徐々にすれ違い、別れるというものだが、セリフ、カメラワーク、演出のおかげで、そのストーリーにぐいぐい惹き込まれていった。
 まずカメラワーク。全体にシンプルで、客観的な視点であるようだが、時折アデルの視点が入る。アデルは知らない場で辺りを見ながら、首を左右に向けながら歩く。その目に写るものが、まさにアデルの目線で写し出されることで、観る側がアデルの状況把握ができる。夜中のクラブで濃いキスを交わすカップル、奇抜な格好をした(俗に言う)LGBTの人たち…少女だったアデルが見知らぬ世界を覗き見るような瞬間が描き出されている。
 そうしたカメラワークとともに、アデルの「口(くち)」がとても特徴的だ。歩くときでも口が少し開いているし、寝ているときも口が開いている。その姿はどこかあどけなく、自信がないような印象を与える。そうした口がエマに触れられる(もっと言うと、アデル自身から触れる)シーンをアップで写すのは、とても意味深い。
 さらに言うと(口つながり…というには少し無理があるだろうか)、「食べる」という行為と会話がしばしば同時に登場することがあるのも印象的だ。アデルとエマの出会いの会話だけでなく、哲学や美術、果ては男女の快楽の違いまで、何かを飲み食いすることを第一としつつ語られる。ただ語るだけでは重く、退屈になってしまうような話題もさらっと日常の会話に織り込んでしまう演出は実に上手い。それと同様に、クラブやパーティーで踊るという行為も、相手の様子や気持ちを伺う心理描写が隠れていた。(モノクロ映画のスクリーンをバックに、男性と踊るアデルがエマの様子を気にするシーンは、モノクロ映画とアデルの心情がリンクするという演出が見事に効いていて、観ながら「うわぁ、さりげないけどうまい!」と脱帽してしまった。)
 あとは主演二人の演技だろう。セリフでだけでなく、表情で、キスで、愛撫で演技をしている。そこにアデルとエマがいるのだと思わせてくれた。この二人の演技を観るだけでも十分、一見の価値がある作品だ。
 ちなみに邦題の「ブルーは熱い色」とあるが、途中でエマは髪色を変える。なので、なんとなく邦題にしっくり来なかったのだが、よくよく考えると、恋人でなくなった後にアデルがエマと会うとき、いつもブルーの服を着ているのである。アデルにとって、その色はエマであり、愛であるのだろう。その服を着たアデルがどんな人物になっていくのか…そんな想像を働かせてしまうラストシーンだった。
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