KanakoAriyoshi

自由と壁とヒップホップのKanakoAriyoshiのレビュー・感想・評価

自由と壁とヒップホップ(2008年製作の映画)
3.9
「48年組」というイスラエル残留組の若者たちと、巨大な牢獄と化したガザ地区で育った若者たち。
同じパレスチナ人で、近くにいるのに会うことができないという歯がゆくて残酷な現実が、ラップをぐんぐん盛り上げていく様子が、青春映画としても熱いと思います。

パレスチナ人初のヒップホップグループ「DAM」にあこがれて「僕たちも初めてラップしてみようと思う。友達が銃殺されて、曲の中で彼を生き返らせたい。曲作りを教えて」とお願いしてくる少年たちが、数日後イスラエルに拘束されて懲役10年が確定。
これが日常みたいになっている国のドキュメンタリー。
電話口で「拷問にも慣れた」と言う少年に「慣れちゃダメだ!」と諭すDAMのメンバーは、めちゃくちゃDOPEだと思った。

48年組のDAMたちは彼らなりに、パレスチナ自治区に住んでいないという負い目と、祖国にいながらに亡国状態という差別の目に晒されて生きていた中、DAMに憧れてラップを始めたガザ地区のヒップホップグループ「PR」の存在を知り、彼らと同じステージに立ちたいという希望を持つ。

どっちのグループもヒップホップ音楽としてのレベルが高くて、バズラーマンのドラマ「ゲットダウン」みたいな世界観が現在のパレスチナにある気がした。子供達が夢中になって彼らのラップを聴いている姿が胸に沁みました。

「僕たちが求めてるのは平和な生活だけ。別に報復がしたいとかいうわけじゃなくて、共生したい。でもそれなら均等に割けあわなきゃ。99パーセントを奪うのは間違ってる」

ど正論。
ほんとに、なんでこんな事が簡単にできないかね。パレスチナ問題の話を聞くとほとほとやり切れない気持ちになります。

そもそも私は、ガザ地区がそこまで閉鎖された場所やと知らなかったので、進撃の巨人みたいな壁が、とんでもなく暴力的に映りました。

DAMとPRは果たして今も、ラップできているだろうか。空爆が止まない今、それが気がかりですが、今出会えてよかった映画やと思いました。