にっちゃん

大統領の執事の涙のにっちゃんのレビュー・感想・評価

大統領の執事の涙(2013年製作の映画)
4.3
黒人というだけで、生きることにこれほどの困難が要求されるものなのか。

マルコムX
遠い夜明け
それでも夜は明ける
グレートディベーターズ
アミスタッド
青春の輝き
ふたつの名を持つ少年…

名前を挙げるとキリがないが
人種差別映画が僕にとりわけ突きつける事実は
肌が違うというだけで、なぜ人はこれほどの困難を世話なければならないのか
どうやってこの困難に立ち向かうのか。
ということである。

この映画もその例に漏れず
黒人である。
ことがもたらす不条理な困難にいかなるものかを提示する。


"The law wasn't on our side. The law was against us."
「法は黒人を守るものでなかった。彼らに牙を向いていた。」
というセリフがあった。
この時代、黒人は殺してもよい。というのが常識だった。

すべての人種差別に直面した(している)人々には大きく二つの困難があるように思う。
一つ、差別されることの困難。
そしてもう一つは
差別に立ち向かう時の困難。

当たり前のことなのだが、それでもじっくり確認したい。

差別されることの困難は、文字通り、迫害されることそのものである。バスに乗ってはいけない、ここには立ち入ってはいけない、投票権がない、など無数にある。

立ち向かうことの困難には大きく分けて二つあるように思う。
差別される者は、暴力で差別されても暴力で返すことは許されない。そうすれば差別する側に差別する正当な理由を与えてしまうことになるからだ。しかし、大衆がこれを完全に守るのは不可能である。これが一つ目の困難。
もう一つの困難は差別されることに適応しながら、反抗しなければならないということ。
この映画が他の黒人を描く物語と異なる部分は
白人の世界に適応した父と
白人の世界に立ち向かう息子が対照的に描かれている点である。

息子は黒人である、というだけで白人と同じように振る舞えないことに強い違和感を感じて、公民権運動にのめり込んでいく。
一方、父はホワイトハウス内でも人気の執事となりその地位を確かな者にしていく。

白人の制定した世界に真っ向から立ち向かう息子と
白人の制定した世界に順応して地位を高める父。
この描写は
白人の世界に順応しながら「平等」に立ち向かうことが如何に困難かを僕に突きつけてる気がした。

息子の活動の本当の意味を知ろうとした時、父は自分の執事の仕事に心が込められなくなってしまう。


人種差別された世界に順応しながら人種差別に立ち向かうことが出来るのか。
その問いを突きつけられた一作だった。
にっちゃん

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