半兵衛

人妻集団暴行致死事件の半兵衛のレビュー・感想・評価

人妻集団暴行致死事件(1978年製作の映画)
4.5
大手メジャーがスターを起用した大作ばかり製作されていた1970年代後半に、エロ映画で社会派リアリズム映画の名作が作られていたとは。タイトルは絶対公ではいえないけれど。

東京近郊を舞台にバブルで人々が浮かれ始める直前の1978年という時代の空気感を、開発による土地の高騰でにわか金持ちになった農村育ちの人間たちを通して描いたドラマもさることながらその近所に住む住人や都会で働き電車で家に帰ってくるサラリーマンなど周囲の状況もしっかりと描いておりこの時代を知らない人でも当時の風俗をしっかりと感じとることが出来る細やかなスタッフの仕事が凄い。そしてそんな時代からこぼれ落ちた主人公の不良青年三人組を単なる記号としての小悪党ではなく何故彼らはそういう風になってしまったのかをきちんと描き近所にいるような親しみやすさを感じる分、終盤時代の妙な空気に乗ってしまったかのように彼らが仕出かした取り返しの付かない行為が一層やりきれなくなる。

そんな三人と親しくなるも甘えられる関係性ゆえに被害を受けてしまう元ワルだったおじさんとその妻が80年代という時代の前に消えゆく農業や川の漁業、アイマイ宿の元女中という職業なのも象徴的。

そんな人の良さとワルらしさをあわせ持つおじさんを室田日出男が好演、後半の妻が被害にあってからの展開は室田の全身全霊の演技がヒートアップして田中登ならではの映像美学と相まって邦画でも一二を争う名場面に。

ちなみにこの作品は東武東上線映画でもあり、冒頭の駅から電車に乗る登場人物をはじめ随所に登場する。かつてこの沿線の近くに住んでいた私にとっては身近な出来事のように感じた。

ちなみに昔一緒にこの映画を鑑賞した女の子が「ラストは一体どうしてああいう終わらせ方をしたの?」と私に聞いてきたが、当時も答えに窮したし今もよくわからない。
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